2012年08月12日

患者と医療者で「ともに考える」“腎生検の適応”

“患者と医療者で「ともに考える」インフォームド・コンセントの手引き”
文部科学省 科研費事業“ともに考える医療”のための新たな患者-医療者関係構築を目的とした実証・事業研究の一環として2012年2月に作成されました。
研究責任者:尾藤誠司先生(独立行政法人国立病院機構東京医療センター) 

インフォームド・コンセントを本来の目的である、「患者にとって良いことを決めるための相談」のプロセスに向けるよう、舵を切るうえで考えたのがこの手引きです。
手引きは、医療関係者以外に法令の専門家や倫理の専門家、コミュニケーションの専門家や市民活動家等、様々な方とともにつくられています。

この手引きの特徴は、左側は患者さん用ページ、右側は医療者用ページになっていて、
同じ内容をそれぞれ別の立場を想定した上、文言を変えて記載されています。

当院では、“ともに考える医療”Followerとして、医療者だけでなく患者さんにもこの手引きについて認知して頂きたく、外来待合室に配置しています。診療待ち時間などで確認することができます。ご希望の方は、1F受付でお問い合わせ下さい。

手引きは、「もはやヒポクラテスではいられない」21世紀 新医師宣言プロジェクトHP
よりPDFダウンロードすることも可能です。「院長ブログ」に来て頂きました患者さん、医療者さんの皆さんで関心のある方は、是非アクセスしてみてください。
“患者と医療者で「ともに考える」インフォームド・コンセントの手引き”ページ

この手引きの “患者と医療者とのコミュニケーションにおける一般的な注意点”の中で
「患者への推奨事項」として、ささえあい医療人権センターCOMLから発行されている「新・医者にかかる10箇条」についても案内しています。(この10箇条は、COMLが研究班の一員として素案づくりを手がけ、インフォームド・コンセントに患者が主体的にかかわっていくことを願って、1998年厚生省「患者から医師への質問内容・方法に関する研究」研究班から発表されました。)

新・医者にかかるための10箇条 出典 ささえあい医療人権センターCOML(コムル)より
 1 伝えたいことはメモして準備

 2 対話の始まりはあいさつから

 3 よりよい関係づくりはあなたにも責任が

 4 自覚症状と病歴はあなたの伝える大切な情報

 5 これからの見通しを聞きましょう

 6 その後の変化も伝える努力を

 7 大事なことはメモをとって確認

 8 納得できないときは何度でも質問を

 9 医療にも不確実なことや限界がある

10 治療方法を決めるのはあなたです


患者が自分の望む医療を選択して治療を受けるためには、まずは「いのちの主人公」
「からだの責任者」としての自覚が大切です。

患者が主人公になって医療に参加するためにどのような心構えで医療を受ければよいのかをまとめたものです。「いつから」「どこが」「どのように」具合が悪いかを具体的に医師や歯科医師に伝えましょう。

また、これまでにかかった大きな病気や現在服用中の薬の名前、過去に起こした副作用など細かいことを伝えられると、医師や歯科医師の方も判断がしやすくなり、適切な治療を受けられることにも通じます。
 
伝えたい内容や質問したいことは、簡単にメモをしておくと良いでしょう。
診断には、診察後すぐに診断される場合と、いくつかの検査を行いその結果により診断される場合とがあります。

どのような検査や治療が必要かなど自分自身の病気のことですから納得いくまで聞きましょう。大事なことはメモを取っておくようにしましょう。

特に自由診療の場合、検査や治療にかかる費用やその内容などについて十分確認してから治療を受けるようにしましょう。
 
診断や治療に疑問や不安があるから、あるいは、症状が良くならないからと、医師や歯科医師に相談せずに次々に医者を替えても決してプラスにはなりません。治療を振り出しに戻し、新たに余分な医療費がかかることになります。
 
厚生労働省の方針として、初期診療や慢性疾患で症状が安定している場合などは、
「診療所(かかりつけ医)」で治療を行います。


診察の結果、専門的な検査、診察や入院が必要と診断され場合は、診療所から紹介してもらい、治療に適切な機能を有する病院で治療を行います。

このように医療機関は機能分担と相互の連携が行われています。病気になり気になる症状が出た場合、まずは近所の診療所(かかりつけ医)にかかり、必要に応じて紹介状を書いてもらい、適切な医療機関を紹介してもらいましょう。これは、大きな病院に上手にかかるコツとも言えます。

慢性腎臓病CKD診療においても、医療連携が取組まれる様になってきました。

腎臓専門医へ紹介することが望ましい基準(CKD診療ガイド2012より)
1)尿蛋白 0.50 g/gCr 以上 または検尿試験紙で尿蛋白2+以上
2)蛋白尿と血尿がともに陽性(1+以上)
3)40 歳未満 GFR 60 mL/分/1.73㎡ 未満
  40 歳以上 70 歳未満 GFR 50 mL/分/1.73㎡ 未満
  70 歳以上 GFR 40 mL/分/1.73㎡ 未満

腎臓専門医への紹介基準
患者と医療者で「ともに考える」“腎生検の適応”CKD診療ガイド2012(PDF資料ほか)「CKD患者を専門医に紹介するタイミング」より

腎臓専門医側の診療の中で、上記1)〜 3)に基づき紹介頂いた患者さんに対しての精査(腎生検を含む)及び治療介入を行ないます。

ここでは、患者さん、医療者(特にかかりつけ医)には、
「腎生検適応」についての一般的知識を知って頂きたく、以下にご説明します。

【腎生検の目的】
①腎疾患を病理学的に診断すること。
②予後や治療効果を推定すること。
③治療方針を決定することにあります。

【適応となる病態】
①検尿異常(蛋白尿・血尿)
②ネフローゼ症候群
③急性腎不全
④移植腎などがあげられます。

【禁忌となる病態】
①出血傾向
②機能的片腎
③萎縮腎
④管理困難な高血圧などがあげられますが、絶対的なものではありません。

無症候性血尿は最も頻度が高い検尿異常でありますが、すべてが腎生検の適応となるとは考えられていません。血尿の程度が高度な場合や、尿沈渣所見によって尿中赤血球の形態を観察して変形赤血球が、多数認められる場合には糸球体疾患(遺伝性腎炎[Alport症候群・thin basement membrane disease など] や原発性糸球体腎炎、特に、IgA腎症)を疑い腎生検を施行することが多いです。

しかし、一般的に血尿のみの例では尿路系疾患(腫瘍、結石、感染症など)を鑑別することが最も重要で、泌尿器科的な精査を優先すべきです。蛋白尿のみの例では、定性検査で尿蛋白が(1+)~(2+)程度が持続し、1日尿蛋白量が、0.3 ~ 0.5g 以上(随時尿における尿蛋白/クレアチニン比)の場合には腎生検を施行し、糸球体疾患を鑑別する必要があると考えられています。学校検尿、就職時の検診、生命保険加入時などの情報を収集することも重要です。

血尿と蛋白尿を認める場合には糸球体疾患の可能性が高く、より積極的な腎生検の適応となります。特に、尿沈渣で赤血球円柱を認める場合には腎炎の活動性が高い可能性があり病理学的評価が必要となります。また、それまでに検尿異常の病歴がない例で検尿異常がみられた場合(急性腎炎症候群)も適応となります。
起立性蛋白尿を代表とする良性蛋白尿が明らかになれば、腎生検の適応はありません。

腎生検が禁忌となる病態に関して普遍的に統一された見解はありませんが、最も問題になるのは出血傾向です。血小板数、出血時間、凝固時間などを検査して総合的に評価しなければなりません。腎の数や形態の異常がある場合には経皮的腎生検は原則として禁忌と考えられています。片腎は機能的な意味で、2つの腎臓を保有していても一方の腎が低形成や高度の萎縮腎である場合にも片腎として判断しなければなりません。安全な腎生検の施行という観点からは、経皮的腎生検は原則として禁忌と考えられ、開放腎生検の適応について考慮します。なお、移植腎生検は機能的には“1腎”ですが、経皮的腎生検の適応となります。その他、多発性嚢胞腎、水腎症などは腎生検禁忌です。これらの評価のためには、腎臓超音波検査が有用です。

成人では腎生検の適応を決定するうえで腎径を評価することは最も重要です。当院では、腎臓超音波検査によって、両腎の長・横径を計測しています。腎機能障害が高度でも腎径が3椎体以上(腎臓腫大が確認された)場合には急性腎不全の可能性が高く、腎生検による組織学的評価は原因を究明し、治療方針を決定するうえで有用な場合があります。腎機能障害を認め、腎長径が、超音波検査にて 8 ~ 9 cm未満の腎は、萎縮腎の可能性が高く、出血合併症の危険性が高く、組織学的評価は困難な場合が多く、腎生検の有用性は低いと考えられています。

患者と医療者で「ともに考える」“腎生検の適応”
参考文献:腎生検ガイドブック―より安全な腎生検を施行するために―
(編集 日本腎臓学会・腎生検検討委員会:発行2004年5月)

腎生検によって得られた組織は、光学顕微鏡診断に加えて、検体を蛍光染色で染めて免疫的診断も行ない、さらに電子顕微鏡での最終診断を行ないます。

当院においては、外来診療の中で「腎生検適応の有無評価」を行なっています。
「腎生検適応」となった患者さんは、大分大学医学部附属病院腎臓内科にて腎生検を行なっています。(2012年8月現在)

患者さん(職場検診や特定健診など)、医療者(特にかかりつけ医)の方で、尿蛋白2+以上または、蛋白尿と血尿がともに陽性(1+以上)を確認された場合は、「腎生検適応」となる場合がありますので「松山医院大分腎臓内科」までお問い合わせ下さい。


参考サイト
「もはやヒポクラテスではいられない」21世紀 新医師宣言プロジェクトHP
“患者と医療者で「ともに考える」インフォームド・コンセントの手引き”ページ
COML(コムル)とは?
私たち一人ひとりが「いのちの主人公」「からだの責任者」。そんな自覚を持った「賢い患者になりましょう」を合言葉に、COMLは1990年9月に活動をスタート。
COML(コムル)厚生労働省PDF資料より
日本腎臓学会発作成の診療ガイドライン
CKD診療ガイド2012 日本腎臓学会(PDF資料ほか)
蛋白尿の読み方「尿蛋白/尿中クレアチニン比」の意味「院長ブログ」2012年4月23日号
「学校検尿」は何のために行われるの?「院長ブログ」2012年4月5日号



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Posted by 松山医院大分腎臓内科 at 22:23 │腎臓内科に関する事