2013年05月27日

あなたの1日塩分摂取量はどのくらいですか?

慢性腎臓病(CKD)をはじめとする生活習慣病の日常生活管理の中で食事療法は基本となります。CKDは、高血圧症を合併する患者さんも多く、また、管理不良の高血圧症はCKDの原疾患の一つとなる高血圧性腎硬化症の発症要因となります。
その他、CKDの原疾患となる糖尿病性腎症、IgA腎症などの慢性糸球体腎炎は、食事療法が大切でありCKDの全てのステージ(病期)において塩分制限6g/日未満を基本とします。

2013年世界保健デーのテーマは、「高血圧」でした。
世界保健デーは、世界保健機関 (World Health Organization: WHO) が設立された
1948年(昭和23年)4月7日を記念して設けられたものです。

WHOは2013年の世界保健デーの最終目標は心臓疾患や脳卒中を減らすことであるとし、以下を目的としたキャンペーンを行いました。
① 高血圧の原因と合併症について普及啓発を行う。
② 高血圧やそれに関連した合併症の予防についての情報を提供する。
③ 定期的な血圧測定の促進と、専門家のアドバイスを受けるよう奨励する。
④ 高血圧を予防するための自己管理を勧める。
⑤ 全ての人にとって血圧測定が手頃な価格で行えるようにする。
⑥ 人々が健康的な行動をとりやすい環境を整えるよう国や自治体に働きかける。

世界では成人の3人に1人が高血圧を発症しています。しかしながら、そのほとんどが気づかれない状態にあります。なぜなら、高血圧は発症したとしても、かならずしも症状が出るわけではないからです。症状に気づかず適切な治療を行わなかった結果、世界で毎年900万人以上の人々が亡くなっています。その半数が、心臓疾患や脳卒中で死亡しています。予防と適切な治療、それが高血圧によるリスクの低減につながります。また、人口が増えて寿命も延び、豊かになった新興国や途上国でも生活習慣病が増えており、死因の63%が生活習慣病だとも報告しています。(2013年世界保健デーwebsiteより改変)
http://www.who.int/kobe_centre/mediacentre/forum/whd-2013/ja/index.html
(キャンペーンの詳細・日本語)

そして2013年5月17日は「世界高血圧デー」でした。
毎年5月は高血圧啓発キャンペーン月間です。
「世界高血圧デー」については、院長ブログ
2012年5月17日号“ウデをまくろう、ニッポン!「世界高血圧デー/高血圧の日」”
また、高血圧症と関連する「塩」については、
2012年6月10日号“塩を減らそうプロジェクト”でとりあげており、
コチラもアクセスしてみて下さい。

本題の“1日塩分摂取量”については、平成22年の国民健康・栄養調査における
20歳以上の男性平均値は11.4g/日、女性は9.8g/日と報告しています。

厚生労働省が発行した「日本人の食事摂取基準(2010年版)」では、
国民レベルでの食塩摂取量の目標値(12歳以上)において、
男性は9.0g/日未満、女性は7.5g/日未満を算定しています。

一方、高血圧患者の減塩目標値について、日本高血圧学会による
高血圧治療ガイドライン(JSH2009)では6g/日未満と提唱しています。

日本高血圧学会「減塩委員会報告2012」において、高血圧症に対する生活習慣修正の中でも減塩が重要であること。減塩指導に際し、個人の食塩摂取量を評価することが不可欠であるとしています。食事塩分摂取量評価を行った上で、目標達成を目指した指導を行い、その効果判定を行うことではじめて実効的な減塩指導と言えると述べられています。

当院では、塩分摂取量を確認する上でのgold standardである
24時間蓄尿検査「ユリンメートP」による評価を実施しています。
蓄尿検査の実施が困難な患者さんに対しては、
spot尿(随時尿)を用いた推定1日塩分摂取量検査を実施しています。

ユリンメートP検査(24時間蓄尿検査)
24時間蓄尿量と24時間蓄尿中ナトリウム値を計算式に用いる
塩分摂取量(g/日)=尿中ナトリウム(mEq/L)×尿量(L)/17
[塩分1gはナトリウム17mmol(17mEq)に相当]

推定1日塩分摂取量検査(随時尿検査)
随時尿ナトリウム(Na)値・尿中クレアチニン(Cr)・身長・体重・年齢を計算に用いる
[田中の式]
24時間Na排泄量(mEq/日)
=21.98×[ 随時尿Na(mEq/L)/随時尿Cr(mg/dL)÷10×24時間尿Cr排泄量予測値(mg/日)]^0.392
24時間尿Cr排泄量予測値(mg/日)
=体重(kg)×14.89+身長(cm)×16.14-年齢×2.04-2244.45
Tanaka T, Okamura T, Miura K, et al.A simple method to estimate populational 24-h urinary sodium and potassium excretion using a casual urine specimen.J Hum Hypertens 2002 Feb 16(2):97-103.

腎疾患と尿蛋白(アルブミン尿)
減塩は尿蛋白あるいはアルブミン尿を減少させるという複数の報告があります。減塩による尿蛋白/アルブミン尿の改善効果は降圧を伴うことも報告されています。食塩の過剰摂取は腎糸球体のhyperfiltrationを惹起することが高血圧患者のみならず正常人にも示されており、減塩はhyperfiltration改善効果によって尿蛋白/アルブミン尿を抑制しているという機序が考えられます。
Krikken JA,Laverman GD,Navis G.Benefits of dietary sodium restriction in the management of chronic kidney disease. Current Opinion in Nephrology & Hypertension.18:531-538,2009

Vogt L,Waanders F,Boomsma F,et al.Effects of Dietary Sodium and Hydrochlorothiazide on the Antiproteinuric Efficacy of Losartan.J Am Soc Nephrol.19:999-1007,2008

一方、ACE阻害薬治療中の非糖尿病性慢性腎臓病患者を対象にした観察研究では、食塩摂取量の増加に伴い尿蛋白/クレアチニン(P/C比)が増加し、かつ、末期腎臓病の発症が増加することが報告されています。
Vegter S, Perna A, Postma MJ, et al.Sodium intake, ACE inhibition, and progression to ESRD. J Am Soc Nephrol. 2012 Jan;23(1):165-73.

減塩に関する世界の動きでは、2003年に発表された世界保健機関/食糧農業機関(WHO/FAO)の食事、栄養と慢性疾患のレポートでは、血圧低下のためには食塩摂取量を5g未満にすべきとしています。2007年の欧州高血圧学会-欧州心臓病学会(ESH-ESC)は、食塩3.8g/日が理想とし、現実的な目標値として食塩5g/日未満を設定しています。
日本人の食塩摂取量は国際的にみると高く、治療目標値も高めの設定となります。

高血圧治療の実際は、検診や医療機関で患者面談時に医師、保健師、管理栄養士、看護師によって、日常の食生活の中でまず塩分摂取量を6g/日未満を目標とする指導が基本です。
当院では管理栄養士による個別専門指導を行っています。
食習慣/食塩摂取量の現状の調査を行い、食習慣における問題点を明確にし詳細指導を実施します。また、塩分摂取量6g/日未満が実行できているかの客観的評価(ユリンメートPによる蓄尿検査あるいは随時尿による推定1日塩分摂取量検査)を行い、これらの指導や評価を降圧薬内服に加えて実施することでより効果的な降圧が得られるように目指します。

降圧薬を服用中の患者さんは、外来で1日塩分摂取量を確認してみましょう!

あなたの1日塩分摂取量はどのくらいですか? 関連サイト
 推定食塩摂取量計算アプリ
 開発: MSD株式会社
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