2012年05月27日

校医の健康だより「熱中症について」

当院は、隣接する「大分市立東稙田小学校」の学校医です。昨シーズン(平成23年度)から同小学校のPTA新聞の連載シリーズ「校医の健康だより」がスタートしました。
今回は、平成24年7月発行号に向けて作成した内容をバージョン改変して綴ります。

熱中症について 
小児は、体温調節機能がまだ十分に発達してないため、熱中症になる危険性は成人よりも高くなります。さらに気温が高い日に散歩などをする場合、身長の低い幼児・小児は大人よりも危険な状態となります。

理由は炎天下時には地面に近いほど気温が高くなるためです。
気象庁で測定される気温は、地上1メートル50センチの高さを基準にしています。そして、湿球黒球温度(しっきゅうこっきゅうおんど)」は、酷暑の環境下での行動に伴うリスクの度合を判断する指標で「WBGT 」と呼び、環境省ではこれを「暑さ指数」と称しています。

WBGTWet-Bulb Globe Temperature:湿球黒球温度(単位 ℃)】労働環境において作業者が受ける暑熱環境による熱ストレスの評価を行う簡便な指標。詳細は、厚生労働省ホームページ「熱中症の予防対策におけるWBGTの活用について」を参照下さい。

高さによるWBGT値の差は、高さ1メートルでは高さ1メートル50センチに比べて0.4度、50センチでは1.1度、5センチでは2.1度、それぞれ、WBGTが高くなることが判明しています。参考文献としては、「㈱京都電子工業」サイト内の米国気象学会2006年度シンポジウム論文:「WBGTの連続観測と地表面・高さによる違い」が解りやすくまとめられていました。したがって、大人が暑いと感じる時は、背丈の低い幼児や小児はさらに高温の環境にいることになります。

スポーツ活動時の注意事項 
スポーツ活動での熱中症を確認すると、月別では、7月下旬と8月上旬に多く発生すると報告されています。暑い中でのトレーニングは、集中力・思考力を低下させる事からトレーニングの質も低下します。したがって熱中症による事故予防だけでなく、効率の良いトレーニングを考えた運動方法、水分補給などに留意する必要があります。特に集団で行なうスポーツ活動時の熱中症の発生には、環境条件・運動条件・個人の体調が関係して来る事から、運動をコントロールする指導者やリーダーが、熱中症について熟知し、予防への配慮が大切です。個人の条件としては、基礎体力がない、肥満、暑さに弱い人は、熱中症を起こしやすく、運動量を調整しましょう。また、下痢、発熱、睡眠不足による疲労など体調不良時は、熱中症を起こしやすく運動は控えましょう。

運動に関する指針以下画像クリックで参照できます


環境省熱中症情報では、熱中症への環境省の取り組みを紹介しています。環境省が作成し、公表している保健活動にかかわる方々向けの「熱中症環境保健マニュアル-2011年5月改訂版-」では、「熱中症とは何か」「熱中症を防ぐためには」「保健指導のあり方」などについて紹介しています。

夏以外の季節でも急に暑くなると熱中症が発生しています。体が暑さに慣れてないためです。日頃から適度に外遊びなどして暑さに慣れておきましょう。

「大分市立東稙田小学校」は、私の母校でもあります。
1877年に創設され2012年となる今年は、開校135年目の歴史ある小学校です。

関連サイト
「熱中症の予防対策におけるWBGTの活用について」:厚生労働省
「暑さ指数(WBGT)とは」:国立環境研究所
「WBGTの連続観測と地表面・高さによる違い」
米国気象学会2006年度シンポジウム論文:㈱京都電子工業
環境省熱中症情報:環境省
日本気象協会
1877年創設〜開校135年目
大分市立東稙田小学校  


Posted by 松山医院大分腎臓内科 at 10:25医院について

2012年05月17日

ウデをまくろう、ニッポン!「世界高血圧デー/高血圧の日」

国際的な「高血圧」に関する医学情報交換の場として1966年設立の「国際高血圧学会(ISH:International Society of Hypertension)」があり、国際ガイドラインを作成しています。その関連団体として一般市民啓発活動を目的に1988年に設立されたのが、「世界高血圧連盟(WHL:World Hypertension League)」です。そして、「世界高血圧連盟(WHL)」によって「高血圧」及びその管理に関する啓発を目的に「世界高血圧デー:World Hypertension Day」が、2005年5月17日に制定されました。

日本での「高血圧」に関する動きは、現在の「日本高血圧学会JSH:The Japanese Society of Hypertension」が1978年に設立。そして、学問の成果を国民に還元し、国民の福祉に寄与する専門の活動機関として「日本高血圧協会JAH:The Japanese Association of Hypertension」が、「日本高血圧学会」から立ち上げられ、2006年より活動開始。2007年5月17日の「世界高血圧デー」に合わせて実施した高血圧の理解を深め、自分の健康のために定期的な血圧測定を促す啓発キャンペーンが、「ウデをまくろう、ニッポン!」です。そして、両団体が、毎年5月17日を「高血圧の日」に制定することを日本記念日協会に申請し、2008年から正式に「世界高血圧デー」=「高血圧の日」と定められています。

それでは「高血圧症」は、どのような病気と関係があるのでしょうか?
高血圧コントロールの不良状態が長期間続くと全身の血管が動脈硬化をおこし、心血管病(心筋梗塞や脳梗塞などCVD )の原因や、腎臓の細小動脈の束で動脈硬化がおこる高血圧性腎硬化症などの慢性腎臓病(CKD)の原因となります。

高血圧症は、初期の段階では、自覚症状が全く無いため職場検診などで発見されることもあります。このため、サイレントキラー ※※とも呼ばれています。コントロール不良の高血圧症は、慢性腎臓病(CKD)を悪化させ、末期慢性腎臓病である「慢性腎不全(人工透析療法が必要)」の原因にもなります。

以上のように高血圧症は、腎臓病との関係があるだけでなく、全身の血管病と深い関係があります。これらの高血圧関連合併症を予防するためWHO(世界保健機関)や「国際高血圧学会(ISH)」、「日本高血圧学会JSH2009」による以下のガイドラインを指標に管理(生活習慣の改善・食事療法・薬物療法)を行なう必要があるのです。


血圧の目標値は年齢や合併症により異なります。
40代の方では診察室での血圧が130/85mmHg未満、家庭での血圧が125/80mmHgが目標値です。糖尿病や慢性腎臓病、心筋梗塞がある方は、上記表のように目標値が厳しくなります。
注:診察室血圧と家庭血圧の目標値の差は、診察室血圧140/90mmHg、家庭血圧135/85mmHgが高血圧の診断基準であることから、この二者の差を単純にあてはめたものです。

“定期検診を受けましょう”
「高血圧」かどうかを知るためには特定健診や職場検診などで血圧を測定するか、家庭で血圧を測定することが必要です。血圧は年齢とともに高くなります。症状がないからといって検診を受けていない方の中に実際は、「高血圧」の方が潜んでいる可能性もあり、これを放置しておくのは大変危険です。皆さんも定期検診は、必ず受けましょう。
当院では、腎臓病早期発見のための無料検診(IKEAJ-KEEP)を行なっています。

“家庭で血圧を測定しましょう”
特に高血圧かどうか分からない方、検診で血圧が高いと指摘されるけど医師による指導・治療を受けられてない方は、“家庭血圧測定”が必要です。「日本高血圧学会」では、高血圧患者さんをはじめ、一般市民の皆さんに血圧について関心を持って頂き、家庭血圧を正しい方法で測定して頂くことをお勧めするため「家庭で血圧を測定しましょう」というパンフレットを作り、“家庭血圧測定”の大切さをわかりやすくまとめています。一読してみて下さい。また、当院の腎臓内科外来では、患者さんに「家庭血圧ノート」をお渡ししています。

CVD:Cardio Vascular Disease(心血管病)
2003年に「米国心臓病学会AHA:American Heart Association」において循環器専門医の立場から慢性腎臓病(CKD)は、心血管病(CVD)発症のリスクであるとの声明が発表されました。慢性腎臓病(CKD)になると血管病および心臓病を合併しやすいことが明らかになり、動脈疾患、心臓弁膜疾患、心不全、不整脈、脳血管障害(脳出血・脳梗塞)、末梢血管障害のいずれかもしくは複合的なものを心血管病(CVD)と総称する疾患概念が提唱され、心血管病(CVD)も国際的な用語となりました。さらに、多くの慢性腎臓病(CKD)患者さんが、末期腎不全(腎代替療法が必要)に至る前に心血管病(CVD)で命を落していることも判明しました。また、透析患者さんの主な死亡原因も心血管病(CVD)です。慢性腎臓病(CKD)の合併症治療において、心血管病(CVD)管理は、最も重要な臨床的課題であり、循環器専門医(心臓血管外科/循環器科)との医療連携(病診・診診連携)が重要となっています。

※※ サイレントキラー:“沈黙の殺人者”
それは普段は症状がなく沈黙しており、脳卒中や心筋梗塞・心不全・腎不全など生死に関わる心臓・腎臓・血管に障害が出て初めて症状が出るため“沈黙の殺人者”といわれます。

postscript
「大人4人に1人が高血圧 WHO、肥満も10%以上」(共同通信社 5月17日(木) 配信より)
世界保健機関(WHO)が16日発表した2012年版の「世界保健統計」によると、世界の25歳以上の大人のうち、高血圧と診断される人口の割合は08年に男性が29.2%、女性が24.8%だった。WHOが高血圧の割合を統計化したのは初めて。世界全体で4人に1人が高血圧ということになる。
日本は男性26.4%、女性16.7%で世界平均より低いが、心臓病などにつながる高血圧がまん延している実態が浮き彫りになった。
20歳以上の大人のうち、肥満と診断される人口の割合は08年の世界平均で男性が10%、女性が14%。日本は男性5.5%、女性3.5%だった。
慢性疾患による死者は08年、死者全体の6割以上に当たる3610万人。WHOは対策として、低中所得国では適切な医療の拡大を、高所得国では食事管理、適度な運動、禁煙をそれぞれ挙げている。
統計では、高血圧は最大血圧が140以上、または最小血圧が90以上と定義。肥満に関しては体格指数(BMI)が30以上と定めている。【ジュネーブ共同】

関連リンク
日本高血圧協会
日本高血圧学会
世界高血圧連盟(WHL:World Hypertension League)
国際高血圧学会(ISH:International Society of Hypertension)
血圧ドットコム  


Posted by 松山医院大分腎臓内科 at 20:25腎臓内科に関する事

2012年05月07日

「三位一体」「大分トリニータ」めざせディビジョン1(J1)

5月6日は、末っ子の「大分トリニータレディース チャリティーサッカー教室」参加に続き、久しぶりに長男&次男の男組で「Jリーグ ディビジョン2(J2) 第13節ガイナーレ鳥取戦」を観戦してきました。対戦相手はこれまで下位グループにあり、J1昇格のためには絶対に負けられない相手でした。結果は「3-0」の快勝で暫定順位5位、首位との勝ち点差5とJ1射程圏内に付けています。

2012年シーズンは、原則日曜日の開催とされたことは、私的には良かったです。J2全22チームでホーム&アウェイの42試合となり、J1の16 位- 18位がJ2へ自動降格、J2の1位・2位がJ1へ自動昇格、J2の3位 - 6位の間でJ1昇格プレーオフ(2012年シーズンから実施)、J2の21-22位がJFLへ自動降格/入替え戦(2012年シーズンから実施)となっている様です。

「大分トリニータ」の歴史は、1994年「大分フットボールクラブ」として発足当初、クラブ名は、「三位一体(さんみいったい)」を表す英語「トリニティ(Trinity)」を組入れて「大分トリニティ」という愛称でスタート。1999年からは、Jリーグ ディビジョン2(J2)に初年度からの参戦が決定。しかし、「トリニティ」という名称が商標問題で正式登録名として使えず、Jリーグ加盟と同時にイタリア語で「三位一体」を意味する「トリニータ(Trinita)」とし「大分トリニータ」に改称(公式サイトのプロフィールページによると、トリニ-タは造語で「トリニティ・おおいた」を合わせたものとしています)。2002年J2優勝で2003年シーズンからJ1へ昇格。J1タイトルは、2008年Jリーグカップ(ナビスコカップ)制覇(クラブ初そして九州チーム初のJリーグタイトル)があります。しかし、2009年にチームバランスを崩し、J2へ降格。2010年シーズンからJ2での戦いが続いています。2012年のチームスローガンからは、「挑戦×頂戦」であり、トップリーグへ照準を合わせている意気込みを感じます。

「三位一体」の語源は、“キリスト教で、「創造主としての父なる神」と「キリストとして世に現れた子なる神」と「聖霊なる神」が唯一なる神の三つの位格(ペルソナ)であるとする説”この三者に優劣の差別はない。(広辞苑第6版より)

最近では、「三位一体」は、キリスト教神学を離れて、「三者が心をあわせる」ことや、「3つのものを一つにあわせる」ことを指して用いられ、「大分トリニータ」では、「県民・企業・行政」の3つが一致団結することを意味しています。2009年シーズンの様な年とならない働きかけ(スタジアムに行くこと)が、県民サポーターとしても必要と思います。

「三位一体」という言葉は、行政を交えた医療活動でも登場します。成功した取組みとしては、1961年から開始された「福岡市の久山町と九州大学第二内科の成人病共同研究」です。以来、毎年の成人病健診と5年に1度の40歳以上の住民全員を対象とした一斉健診、長期追跡調査を50年にわたって続けられました。成人病健診を開始した翌年には,死亡原因の究明を目的とした剖検が開始。「調査・研究を行う九州大学」、「健診業務・健康行政を担う行政」、「かかりつけ医として診療に当たる町内開業医」による「三位一体」の取り組みが、"ひさやま方式"として脚光を浴びました。

「慢性腎臓病CKD」対策についても「三位一体」の取り組みが必要と考えられる様になっています。また、CKDに関わらず、各疾患対策の中で、「健康行政を行なう県(&各市町村)」、「各疾患の医療を担う専門医(専門クリニック・基幹病院・大学病院)」、「プライマリーケアを担うかかりつけ医」の3つが一致団結することが大切と思います。

透析医療の現場では、チーム医療の体制としての「三位一体」です。「主治医」、「看護師」、「臨床工学技士」が「三位一体」となって患者さんの治療にあたります。

キリスト教から始まった「三位一体」が、様々な現場で活躍しています。それぞれの「三位一体」には目標があります。「具現化」できる様に行動したいものです。

2012年シーズン「大分トリニータ」の意気込みである「挑戦×頂戦」は、私たちの思いを「具現化」できる可能性を秘めていると感じました。そのためには、「大分トリニータ」の「三位一体」を構築する一つとなる私たち「大分県民」が、一人でも多くスタジアムに足を運ぶことです!

田坂和昭監督と2ショット



関連リンク
「大分トリニータ」公式サイト
大分トリニータの年度別成績一覧
研究者・行政・町内開業医、そして住民〜互いへの信頼と尊敬が研究を支える〜【取材記事】第2910号 週間医学新聞(2011年1月3日)医学書院  


Posted by 松山医院大分腎臓内科 at 14:01オフタイム