2013年07月31日

イヌリンクリアランス(inulin clearance)について

イヌリンは、果糖が直鎖上に結合し、その末端にブドウ糖が付加された平均分子量3000~8000の多糖類です。普段よく食べているタマネギ、ゴボウなどといった多くの植物に存在します。「キクイモ」や「チコリ」には 特に多く含まれています。

【イヌリンの用途】
イヌリンを食品に入れた場合、例えばパンにほんの少量入れると、“きめが細かく”なり、
“モチモチ”した食感になるようです。クッキーに入れると“サクサク”します。
このように食品添加物として日本では使用されていました。

また、イヌリンが麹菌や酸によって加水分解して生成するフルクトース(果糖)は、糖尿病に優しい栄養・甘味料である事や、摂取したイヌリンは体内に吸収されず、腸の中で水溶性の食物繊維として働くという事で、最近はサプリメントとしても利用されています。

【腎機能検査薬としてのイヌリンの特性】
イヌリンは腎機能の指標である糸球体ろ過量(GFR)を測定する上で以下の様な理想的な特徴を有しており、イヌリンクリアランス(Cin)はGFR測定のgold standardとされています。

【特徴】
・血漿蛋白と結合しない
・糸球体基底膜を自由に透過する
・尿細管で再吸収・分泌されない
・生物学的活性がない
・体内で代謝されない(腸内のバクテリアで分解)

eGFRはあくまで簡易評価と考えるべきであり、
より正確な腎機能評価を要する場合は実測GFRが望ましいとされています。

【イヌリンクリアランス検査の実際】
1 腎疾患患者における腎機能の正確な評価
2 腎移植ドナーが腎臓を提供する前
3 腎排泄性薬剤の投与量設定
4 筋肉量の減少している患者又は少ない患者
  (老人、長期臥床、筋萎縮疾患等)
5 薬剤の腎機能に対する評価
6 血清Cr値の変動が大きな患者

腎機能の基本である糸球体濾過量(GFR)の国際標準測定法はイヌリンクリアランス測定
ですが、保険収載されたのはつい最近(2006年)のことです。

現在、日本の全ての医療機関で“eGFR推算式”は使用されるようになりましたが、
「日本腎臓学会プロジェクト日本人のGFR推算式」に参加した
71施設の真のGFR「イヌリンクリアランス」測定結果をもとに作成されました。
大分県からは唯一、当施設がプロジェクトに参加し、新しいeGFR推算式が完成される
歴史に関わっていました。

当院では、腎臓内科入院において常時
「イヌリンクリアランス(Cin)」測定可能な体制としています。
イヌリンクリアランスの詳細については、腎臓内科外来にてご確認下さい。


イヌリンクリアランスとは





















関連リンク
イヌリード注 富士薬品
日本腎臓学会  


Posted by 松山医院大分腎臓内科 at 23:59腎臓内科に関する事

2013年04月04日

私たちは腎臓の元気を守ります!!病診連携システム協力医療機関

大分市慢性腎臓病(CKD)病診連携システムがはじまります。

“院長ブログ2013年2月28日号”にて
皆さんにご紹介しました「大分市慢性腎臓病病診連携システム」が起動します。

大分市ホームページでは、普及啓発を目的に2013年4月3日より市民の皆さんと医療機関に向けた「大分市慢性腎臓病病診連携システム」専用ページを作成し公開しています。


【大分市慢性腎臓病病診連携システム】
からだの中の老廃物を尿として排泄し、血液をきれいに保ってくれる大事な「腎臓」。
この機能がさまざまな理由で低下する「CKD(慢性腎臓病)」が問題になっています。
自覚症状がないままに進行し、その機能が失われてしまうと、腎不全で死に至る危険もあります。

CKDの重症化予防のためには、一人の患者さんに対して、必要に応じて“かかりつけ医(病診連携医)”と“腎臓専門医”とが併診(診療連携)を行うことが効果的です。この併診を行う、「大分市慢性腎臓病病診連携システム」が2013年4月からスタートします。


【病診連携の内容】
より良いCKD診療のため、かかりつけ医と腎専門医が併診(診療連携)して患者さんの治療を継続するものです。

1 健診の結果で、腎機能が受診勧奨レベルとなった方は、
  かかりつけ医(病診連携医)を受診し相談します。


2 かかりつけ医は、診察の結果、患者さんの腎機能が紹介基準にある場合、
  腎専門医へ紹介します。
 
  ◎紹介シート使用(医療機関用)
   クリックで拡大表示します。











3 腎専門医は、必要な検査等をおこない、正確な腎機能を把握し、病気の診断
  及び治療方針の決定を行います。その情報をかかりつけ医へ提供します。

  ◎返信シート使用(医療機関用)
   クリックで拡大表示します。











4 かりつけ医は、腎専門医からの指示を受け、CKD診療を継続します。

5 その後も腎専門医とかかりつけ医は連携して患者さんにより良い治療を行いま
  す。必要に応じて腎専門医に再紹介し、腎機能の判定や治療方針の変更を行い
  ます。

  ◎CKD手帳の活用



【連携システム概要】
 クリックで拡大表示します。







【紹介基準】
 クリックで拡大表示します。







【保健所への連絡票】
 クリックで拡大表示します。












「腎専門医」および「病診連携医」の各医療機関は下記のステッカーが目印です。























松山医院大分腎臓内科は、慢性腎臓病(CKD)病診連携システム協力医療機関です。





関連情報[大分市ホームページにリンク]
大分市慢性腎臓病(CKD)病診連携システム協力医療機関を紹介します
慢性腎臓病(CKD)って何だろう?あなたの腎臓大丈夫?

医療機関用ダウンロードファイル[大分市作成]
紹介基準・専門医への紹介基準 (Microsoft Excel:37KB)
紹介シート (Microsoft Excel:43KB)
保健所への連絡票 (Microsoft Excel:28KB)
返信シート (Microsoft Excel:33KB)
連携システム概要 (Microsoft Excel:58KB)
  


Posted by 松山医院大分腎臓内科 at 13:33腎臓内科に関する事

2013年04月01日

透析患者における高血圧治療とドライウェイト管理

透析患者の血圧管理については、日本透析医学会より「血液透析患者における心血管合併症の評価と治療に関するガイドライン」1)が、2011年に公開されています。本ガイドラインでは「ドライウェイト(DW)の定義」も触れています。患者さんにも適正ドライウェイト(DW)管理が最も重要であることを理解して頂きたく、本ガイドラインの高血圧管理の項目をドライウェイト(DW)の定義も含めて一部抜粋しました。疑問点は院長回診で確認下さい。

透析患者の高血圧病態
透析患者における高血圧の成因には、
体液量(細胞外液量)過剰
② renin-angiotensin system 系の異常(容量負荷に対する不適切なアンジオテンシンIIの
  反応性)
③ 交感神経活性の亢進
④ 内皮依存性血管拡張の障害
⑤ 尿毒素
⑥ 遺伝因子
⑦ エリスロポエチン、などの関与が指摘されている。
特に体液量過剰は主要因であり、その是正により60%以上の患者で血圧を正常化できる
ことが報告されている。2),3)

透析患者における降圧治療の原則はドライウェイト(DW)の適正化が最も重要で、その達成と維持によっても降圧が不十分な場合に降圧薬投与が有効となる。

【血圧管理についてのステートメント】
1 透析患者における血圧は、透析室における血圧のみならず家庭血圧を含めて評価すべ
  きである(1B)。
2 心機能低下がない、安定した慢性維持透析患者における降圧目標値は、週初めの透析
  前血圧で140/90mmHg未満とする(オピニオン)。
3 目標血圧の達成にはドライウェイト(DW)の適正な設定が最も重要である(1B)。
4 DWの達成/維持後も降圧が不十分な場合に降圧薬を投与する(1B)。

【適正なドライウェイト(DW)設定のための指針】
DWの定義
DWとは「体液量が適正で透析中に過度の血圧低下を生ずることなく、かつ長期的にも心血管系への負担が少ない体重」と定義する。臨床的に設定する方法は明らかではない。
また、臨床的に、体液量過剰状態が明らかでなくても、透析患者では常に体液量は過剰である(silent overhydration)4)
Scribnerは、DWが適正に維持されれば透析患者には降圧薬は不要であると指摘した5)
しかし、高齢者や導入前にすでに動脈硬化性病変が高度な患者ではDWを厳格に設定することは困難なことが多い。
一般的に採用されているDW設定の指標としては、透析中の著明な血圧低下がない、透析終了時血圧は開始時血圧より高くなっていない6)、末梢に浮腫がない、 胸部X線で胸水や肺うっ血がなく、心胸郭比50%以下(女性では53%以下)などがあげられる。

体液量の評価
透析患者の体液量を理学的に評価する場合、浮腫の存在と高血圧は体液量過剰の最も鋭敏な指標である。
理学的所見のほかに繁用される指標として心胸郭比(CardioThoracic Ratio:CTR)がある。CTRには体液量の変動以外に、貧血、腹水、肥満、心肥大、弁膜症・心筋梗塞・心房細動などの心障害、シャントの過剰発達、心囊液貯留などが影響することに注意しなければならない。また、透析前後、体重の増減によって変化するので、DW設定を目的としたCTR測定のための胸部X線は、体重が最も増加している週初めの透析前に行うべきである。
ただし、目的に応じて適宜撮影される。CTRは、胸部X線で最大胸郭径と最大心横径の比率を用いる。
心房性ナトリウム利尿ペプチド(hANP)を体液量の評価として用いることがあり、保険でも月に1回の測定が認められている。しかし、その基準は報告によりさまざまで、DW達成時には50〜100pg/mL以下である7)。しかしながら、器質的な心疾患では高値を示し、hANPはDWの指標とはならない。

DW達成までの期間
透析中の血圧低下を回避しながら除水して降圧されていくのを観察することになる。降圧が目標値に到達する、すなわち、体液量の是正のみで目標血圧値となる時の体重(DW)を達成するまでには、通常、4〜12週間が必要で、症例によっては、6〜12ヵ月を要することもあり、慎重に経過を観察することが重要である8)。DW達成と降圧効果の出現との間には時間差があるためと考えられ、ADMA(Asymmetric DiMethyl Arginine:一酸化窒素合成酵素の内因性阻害物質)やDLIS(Digoxin-Like Immuno reactive Substance:ジギタリス様免疫反応物質)などの関与が推定されている9)DWを変更する際は、透析ごとに0.3〜0.5kg程度毎に徐々に変更していき、週後半でDWに達するように緩徐に行うべきである。
ADMA(Asymmetric DiMethyl Arginine:一酸化窒素合成酵素の内因性阻害物質):ADMAは血管内皮機能の制御における最も重要な役割を果たすNOS(Nitric Oxide Synthase:一酸化窒素合成酵素で血管拡張作用、血小板凝集抑制作用をもつ)に対する内因性阻害物質。末期腎臓病患者において血中ADMAが増加しており、血中ADMA濃度は血管内皮機能低下と相関するのみならず、血管合併症や生命予後の独立した危険因子といわれている。
DLIS(Digoxin-Like Immuno reactive Substance:ジギタリス様免疫反応物質):透析患者でDLISが検出されやすいという報告や高血圧患者でDLISが高値になるという報告がある。


体重増加について
腎機能が廃絶し無尿・乏尿の透析患者では透析間に体重が増加する。その増加量は食塩摂取量と尿量に依存する。血清Na濃度140mEq/Lは食塩水に換算すると 8.2g/Lに相当するので、無尿の患者では8.2gの食塩が体内に蓄積すると、透析患者でも浸透圧上昇に伴う口渇中枢の刺激と抗利尿ホルモンの分泌系は保たれていると仮定すると、浸透圧を等張にすべく1 Lの水を飲水し、理論的には1kg の体重増加が生じる。実際には汗と便を合わせて1日1gの食塩が排泄されるため、週末の透析後、1日15gの食塩摂取で体内には14gが蓄積し1.7kgの体重増加となる。口渇によらない飲水行動にも留意する必要がある。その原因としては、高血糖、お粥の摂取、点滴、お茶などである。透析間体重増加量をどの程度にすべきかに関してはいくつかの報告がある。
USRDS(The United States Renal Data System:米国腎臓データシステム)では、
4.8%(体重70kgで3.4kg)以上の体重増加は予後不良であると報告している10)

透析間体重増加量は、週末でも1.5〜2.0kgにすべきことが推奨されている11)
K/DOQI(The National Kidney Foundation Kidney Disease Outcomes Quality Initiative:米国腎臓財団提唱腎臓病予後改善対策)では1日食塩摂取量は5g以下を推奨している12)。1日5gの食塩摂取では体重70kgの人で最大透析間体重増加が1.5kgになる13)日本高血圧学会では高血圧治療として6gの1日食塩摂取量を推奨している14)
しかしながら、塩分制限が強いあまりに、食欲低下から低栄養状態になることを避ける必要がある。


降圧薬の選択
適切なDWを設定し、それが達成されても降圧が得られない場合に降圧薬投与を考慮する。透析患者における降圧薬選択についてのエビデンスは乏しいが、非透析例で得られた成績を参考にして適用することになる。血圧の評価は1週間単位で、家庭血圧も参考にし、降圧薬を透析日は投与しないなど画一的な指導に終わらず工夫し、1週間にわたって血圧管理が良好に行われることをめざす。降圧薬の選択にあたっては、心肥大抑制など臓器保護効果があることを優先する。作用時間の長短を組み合わせる、透析性と血圧変動を考慮して服薬時間を決定する、透析後に服薬する場合には帰宅後、家庭において降圧が過度に陥る危険性があることに注意する、など留意すべきである。また、降圧が不十分な場合、患者が服薬していない可能性も考慮しなければならない。
アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)やアンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)などのレニン・アンジオテンシン阻害薬は左室肥大抑制効果など心血管系保護効果が明らかで透析患者についても第一選択薬となる降圧薬である。とくに、ARBは胆汁排泄が主体で、透析性もなく、咳嗽などの副作用もないので投与しやすい。
β遮断薬は、心筋梗塞の既往例や有意な冠動脈疾患を有する例で積極的な適応となる。
DOPPS(Dialysis Outcomes and Practice Patterns Study:血液透析患者さんの治療方法と予後について調べている国際的調査)研究では、β遮断薬使用群の生存率が最も良好であったと報告されている。カルシウム拮抗薬の投与も奨められる。いくつかの前向き観察研究で、全死亡や心血管障害死亡を有意に減少させた。透析患者では交感神経活性の亢進も存在し、以上の降圧薬で管理できない場合に中枢性交感神経作動薬やα遮断薬も考慮する。しかし、起立性低血圧など、副作用も多いことから2次的選択薬となる。

高血圧治療の実際
透析患者における高血圧治療の実際を【図1】のようなアルゴリズムで示す。高血圧治療には必要量の透析が確保されていること(適正透析)が前提条件で、透析時間、回数、血液流量、透析膜などの透析条件を再考すべきである。その上でDWの適切な設定・達成・維持をめざすべきである。それでも降圧が得られない場合に降圧薬を投与することになる。
逆に、透析中に高度の血圧低下が発生し、降圧薬の影響が考えられる場合には、降圧薬の減量・中止を考慮し、DWを再度設定し直して経過観察した後に適切な降圧薬を選択すべきである。

体液量の管理
透析患者の高血圧治療の基本的治療は体液量過剰の是正することで、減塩を基礎として透析間の体重増加を抑制した上で適切なDW設定を行う。日本透析医学会の統計調査委員会によれば、透析間の体重増加量が体重の2%以下と6%以上で予後が不良であった15)。USRDSでも4.8%以上の体重増加では予後不良であると報告している8)。透析間の体重増加を抑制することは透析中の血圧低下を防ぐためにも有効に作用し、中1日でDWの3%、中2日では5%を限度とすべきである。一方、透析中の血圧低下を防止するためにDWを安易に上げることは避けるべきである。

【図1】高血圧治療のアルゴリズム
[日本透析医学会:透析会誌2011;44:337-425より]
クリックで拡大表示します







【透析患者の高血圧治療のポイント】16)改変
1 心機能の明らかな低下がないかの確認。ないことが前提で週初めの透析開始時で
  140/90mmHg未満を目標とする。透析後はこの値より下がっている必要があるが、
  透析中に急な血圧低下がないことが重要である。
2 ドライウェイト(DW)を適正に維持する。明らかな胸水やうっ血がないことが重要であ
  り、徐々に除水する。心胸郭比(CTR)50%未満を目標とするが、迷う場合は、hANPな
  どを併用して決定する。
3 ドライウェイト(DW)を適正に設定してもなお血圧高値を認める場合は、RAS阻害薬を
  開始しそれでも適正血圧に維持困難な場合はカルシウム拮抗薬やβ遮断薬を追加する。
4 決定や変更の際には立位血圧値を確認することが望ましい。特に糖尿病性自律神経障
  害がある患者の場合は、慎重に降圧管理を行う必要がある。


1)「血液透析患者における心血管合併症の評価と治療に関するガイドライン」透析会誌44(5):337-425, 2011
2)Zucchelli P, Santoro A, Zuccala A:Genesis and control of hypertension in hemodialysis patients. Semin Nephrol 8:163-168, 1988
3)Agarwal R, Alborzi P, Satyan S, Light RP:Dry weight reduction in hypertensive patients(DRIP). A randomized, controlled trial. Hypertension 53:500-507, 2009
4)Dorhout Mees EJ, Ozbash C, Akcicek F:Cardiovas- cular disturbances in hemodialysis patients:The importance of volume overload. J Nephrol 8:71-78, 1995
5)Scribner BH:Can antihypertensive medications control BP in haemodialysis patients:yes or no? Nephrol Dial Transplant 14:2599-2601,1999
6) Inrig JK, Oddone EZ, Hasselblad V, Gillespie B, Patel UD, Reddan D, Toto R, Himmelfarb J, Winchester JF, Stivelman J, Lindsay RM, Szczech LA:Association of intradialytic blood pressure changes with hospitalization and mortality rates in prevalent ESRD patients. Kidney Int 71:454-461, 2007
7)赤井洋一,草野英二,古谷裕章,大野修一,江幡 理, 手塚俊文,安藤康宏,鈴木宗弥,田部井薫,浅野 泰: 透析患者の ANP は体液貯留の指標となりうるか? 透析会誌 24:1143-1148,1991
8)Chazot C, Charra B, Vo Van C, Jean G, Vanel T, Calemard E, Terrat JC, Ruffet M, Laurent G:The Janus-faced aspect of dry weight; Nephrol Dial Transplant 14:121-124, 1999
9)Khosla UM, Johnson RJ:Editorial:Hypertension in the hemodialysis patient and the Lag Phenomenon :Insights into pathophysiology and clinical management. Am J Kidney Dis 43:739-751, 2004
10)Foley RN, Herzog CA, Collins AJ;United States Renal Data System:Blood pressure and longterm mortality in United States hemodialysis patients:USRDS Waves 3 and 4 Study. Kidney Int 62:1784-1790, 2002
11)Campese VM, Tanasescu A:Hypertension in dialysis patients.In Principles and Practice of Dialysis(sed3). ed Henrich WL, Philadelphia, PA, Lippincott Williams & Wilkins, pp227-256, 2004
12)K/DOQI Workgroup:K/DOQI clinical practice guidelines for cardiovascular disease in dialysis patients. Am J Kidney Dis 45(4 Suppl 3):S1-153, 2005
13)Shaldon S:What clinical insights from the early days of dialysis are being overlooked today? Semin Dial 18:18-19, 2005
14)高血圧治療ガイドライン 2009(JSH2009).日本高血 圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会編集.ライフサイエンス出版,東京,2009
15)新里高弘,佐中 孜,菊池健次郎,北岡建樹,篠田俊 雄,山﨑親雄,坂井瑠実,大森浩之,守田 治,井関 邦敏,秋葉 隆,中井 滋,久保和雄,田部井薫,政 金生人,伏見清秀:わが国の慢性透析療法の現況(1999 年 12 月 31 日現在).透析会誌 34:1-33,2001
16)CKD・透析関連領域におけるガイドラインを日常診療にどう生かすか 臨床透析2012Vol.28 No7
  


Posted by 松山医院大分腎臓内科 at 00:00腎臓内科に関する事

2013年02月28日

大分市慢性腎臓病病診連携システム

大分市は、国保加入者の人工透析患者の割合が高いことから、その原因となる慢性腎臓病対策として、大分市慢性腎臓病病診連携システム検討委員会を開催し、大分市版の紹介基準や紹介様式を作成しました。

当院は、2011年より大分市生活習慣病対策推進協議会の委員として活動し、
2012年より大分市慢性腎臓病病診連携システム腎臓専門医の委員の一員として今回の紹介様式の作成に取組んできました。

そして、行政(大分市)と大分市連合医師会が、本格的にシステムを円滑に起動させていくために医師会会員(かかりつけ医)を対象に「2012CKD診療ガイドライン」に基づいた基礎知識および大分市慢性腎臓病病診連携システム運営についての「CKD病診連携システム研修会」を各医師会(大分市・大分東・大分郡市)において実施しました。
大分郡市医師会は、2013年2月19日(火)に大分市稙田公民館大研修室において研修会が開催されました。当院は、所属する大分郡市医師会長の半澤一邦先生の命を受け、研修会の中で「CKDについて」の講義を担当しました。


大分市慢性腎臓病病診連携システムの概要

1 目的  
大分市は人工透析患者の割合が高い水準にあることから、医師会や腎臓専門医の在籍する医療機関と協議しCKDの発症予防や悪化防止のための総合的な取り組みを行い、年間の新規人工透析患者の減少を目指す。


2 腎専門医と病診連携とは
腎専門医 公的病院または準公的病院(医師会立病院)に在籍する腎臓内科医師
     日本腎臓学会の認定する腎臓専門医師
     大分市慢性腎臓病病診連携システム検討委員会で承認された医師

病診連携医(かかりつけ医) 
大分市慢性腎臓病病診連携システムに協力いただける、かかりつけ医師


3 紹介基準
腎専門医紹介基準【「2012CKD診療ガイドライン」に基づき作成】
年齢別eGFRによる紹介基準       eGFR値(単位:ml/min/1.73㎡)
    ①40歳未満          60未満
    ②40歳以上70歳未満     50未満 
    ③70歳以上          40未満
    ④3ヶ月以内に30%以上のeGFR値の低下

蛋白尿による紹介基準
    ⑤尿蛋白2+以上
    ⑥蛋白尿と血尿がともに陽性(1+以上)

「2012CKD診療ガイドライン」腎臓専門医への紹介基準 
  クリックで拡大表示されます







4 各種シート
    ①紹介シート
    ②保健所への連絡表
    ③返信シート
    ④CKD手帳(大分市で作成中)


5 大分市CKD病診連携システムの流れ(平成25年4月〜開始予定)
  クリックで拡大表示されます






6 連携の内容
    ①市民検診を受けた方で受診勧奨レベルの方に病診連携医を紹介
    ②病診連携医は、「紹介シート」により腎専門医に紹介
    ③病診連携医は、紹介情報を大分市保健所にFAXで送信
    ④腎専門医は、「返信シート」により病診連携医に返信
    ⑤「CKD手帳」のコメント欄を用いて、病診連携医、腎専門医で情報共有
    ※「紹介シート」、「返信シート」は、診療情報提供書として使用できます


7 今後の予定
・病診連携医の募集(2013年2月〜現在募集中)
・市報、ホームページに医療機関を掲載(2013年4月予定)
・「紹介シート」、「返信シート」連絡票は、ホームページからダウンロードできます
・「CKD病診連携ステッカー」を配布します

〈お問い合わせ〉
〒 870−8506 大分市荷揚町6番1号
大分市保健所 健康課 健康づくり推進担当班
TEL 536-2516 FAX 532-3250



TIPS
認定特定非営利活動法人 腎臓病早期発見推進機構
(IKEAJ:International Kidney Evaluation Association Japan)
当院は、地域になにか貢献できることはないかと模索しているなか、
「腎臓病早期発見推進機構(IKEAJ)」の活動に出会いました。
このNPO法人の腎臓病に関する知識と情報をみなさんと共有し、
腎臓病のリスクを減らしたいという考え方に共鳴し、
無料検診日を設け、地域のみなさまに来院していただけたらと思っております。

検診の対象は、高血圧または糖尿病で通院されており未だ腎障害の指摘を受けていない
患者さん、もしくは腎臓病の家族歴を有する方、そしてこの検診を希望する市民の方々
としています。当院は、九州ブロック代表としてパイロットスタディを実施中です。
詳細については、当院ホームページ(腎臓病早期発見検査のご案内)を参照下さい。

今回、IKEAJと当院で“IKEAJ-KEEP in OITA”のパンフレットを作成しました。
  クリックで拡大表示されます










また、IKEAJは、「CKD早期発見プログラム」についてより広く多くの方々へ
理解して頂くために早期発見啓発DVDを作成しています。
YouTubeで確認できます。


そして、毎年3月第2木曜日は、「世界腎臓デー」です!








「世界腎臓デー」のロゴも世界共通公式ロゴマークとして作られました。
2個の腎臓と3色の棒から構成されます。
「私たちの腎臓が、濾過(赤)浄化(青)除去(黄色)している
      血液(赤)余分な水分(青)尿(黄色)を表しています。」

当院では、2007年より3月第2木曜日の「世界腎臓デー」には、
院内コミッティルームにおいて医師・看護師・管理栄養士による
市民公開講座を毎年実施してきました。今回で7年目(7回目)となります
2013年3月14日木曜日も「世界腎臓デー市民公開講座」を実施致します。
参加ご希望の市民の方々は、当院までお問い合わせ下さい。  


Posted by 松山医院大分腎臓内科 at 23:32腎臓内科に関する事

2012年11月24日

日本人工臓器学会(代謝系)最優秀論文賞受賞

2011年に“Journal of Artificial Organs”に私が筆頭者として投稿した
“Acetate-free blood purification can impact improved nutritional status in hemodialysis patients”Kazuhiro Matsuyama, Tadashi Tomo & Jun-ichi Kadota(邦題:アセテートフリー血液浄化法は、血液透析患者の栄養状態改善に影響を及ぼす可能性がある)が、第50回日本人工臓器学会大会(2012年11月22-24日)にて、平成24年度(代謝系)最優秀論文賞に選出され同学会で2012年11月23日に受賞講演を行いました。

本研究は、2007年に現施設に移転(原水から透析液作成過程までの全システム一新)後、
師匠である大分大学医学部腎臓内科友雅司診療准教授と供に行いました。
現在の「松山医院大分腎臓内科」として最初に実施した臨床研究を論文にしたものです。

選考委員会より“本論文は慢性維持透析における新しい透析液として注目をあつめている acetate free dialysate(AFD)の臨床的有用性を血液マーカーの変動で証明した唯一の論文である。AFD の有用性はこれまで in vitro や理論上では示されていたが、臨床研究で明確に示された論文は存在しなかった。本論文は、Leptin や neuropeptide Y のような栄養マーカーの変化から栄養に対する AFD の有用性を、また炎症反応サイトカインである IL6 血中濃度の変化と CRP の変化から AFD の抗炎症作用について立証した貴重な臨床研究論文と考える。症例数や観察期間が不十分との指摘があったものの、本テーマにおける臨床研究の困難さや新規性を考慮すると、本論文賞論文に十分値すると判断した。”との選考理由を頂きました。

第50回記念大会となる歴史ある日本人工臓器学会大会において、名誉ある賞を頂き、喜びと同時に責任の重さを感じています。

私たち「大分大学医学部総合内科学第二講座腎臓班(友雅司診療准教授)」は、「オンラインHDFは、病態とは無関係に“将来の合併症予防、有効なQOLの長期的維持を目的とする症例”に適用すべきである。」論じてきました。そして透析膜や本論文のテーマとなった透析液の生体適合性についての研究を続けています。本学会において、私たちの取組みが、間違っていなかったことを証明することができました。

慢性腎臓病対策と透析医療は日進月歩であり、関連する各分野において今日も新たな研究がなされています。日本は、透析医療の世界最先進国と言われていますが、合併症対策は不十分です。私たち腎臓専門医、透析専門医は、慢性腎臓病患者さんの合併症抑制、生命予後改善を目的とした、さらなるQOL向上を目指した全身管理を追求していかなければなりません。


追記
2012年11月23日には、大分県民にとって素晴らしい出来事がありました。
私たち大分県民の願いである「大分トリニータ」のディビジョン1(J1)復帰が確定しました。「院長ブログ」でもこの日を願い、応援ブログ“「三位一体」「大分トリニータ」めざせディビジョン1(J1)”を投稿していました。J1では、さらなる厳しい戦いが続くことになります。息つく余裕はありません。Jリーグチャンピオンを目指して「三位一体」を一層強固なものにしていかなければなりません。


関連リンク
日本人工臓器学会  
Acetate-free blood purification can impact improved nutritional status in hemodialysis patients  Journal of Artificial Organs (2011)14:112-119

院長ブログ“「三位一体」「大分トリニータ」めざせディビジョン1(J1)”
  


Posted by 松山医院大分腎臓内科 at 15:25腎臓内科に関する事

2012年09月27日

L-FABP(尿中肝臓型脂肪酸結合蛋白)尿中エルファブとは

新しい腎疾患診断用の尿中バイオマーカーとなる「L-FABP」についての説明会が、開発元であるシミックホールディングス株式会社によって2012年9月20日に当科コミッティールームにて行なわれました。

「L-FABP」とは、Liver-type Fatty Acid Binding Protein(肝臓型脂肪酸結合蛋白)の略称で、肝臓と腎臓の 「近位尿細管」で特異的に発現する分子量14 kDaの脂肪酸結合タンパク質です。腎障害が起こり、肝臓から排出された「L-FABP」が腎臓で再吸収されなくなった場合に、尿中に排出されます。(腎機能障害がない場合は、肝臓から排出された「L-FABP」は腎臓で再吸収され、尿中にはほとんど現れません。)
「尿中L-FABP」は、腎近位尿細管の細胞質由来の物質で、尿細管の虚血や尿細管への酸化ストレスによって尿中に排泄されるため「尿細管機能障害を伴う腎臓疾患」の早期診断に有用とされています。

従来、早期腎臓機能障害の指標としては、「尿中アルブミン」検査が一般的でした。
しかし、「尿中アルブミン」検査は、広義でのCKDに対する保険適応はありません。
現在、日本における「尿中アルブミン」検査は、早期の糖尿病性腎症の診断においてのみ保険適応となっています。
しかし、CKDの早期診断には有用であることから、腎臓病早期発見推進機構IKEAJのKEEP検診の検査項目に含まれており、当院では毎月第4火曜日午前に完全予約制で無料検診を実施しています。
KEEP無料検診については、当院までお問い合わせください。

一方、「尿中L-FABP」は、広義でのCKDに対して保険適応となっています。原則的に3ヶ月に1回に限り算定可能となっており、「尿中アルブミン」と同日同時測定についても縛りがなく両者測定も可能となります。また、同時測定の意義としては、糖尿病患者のうちeGFR60以上の患者群で「尿中L-FABP」と「尿中アルブミン」の両者ともに異常値を示した群は、他群(いずれか一方のみ異常を示した群)に比較し、腎機能が有意に低下している事を開発元データ上で明らかにしています。
従って、尿細管機能を反映する「尿中L-FABP」は、糸球体障害の指標である「尿中アルブミン」と同時に測定することによって、早期糖尿病性腎症の病期進行リスクを判別可能とする非常に有用なバイオマーカーとなります。
広義でのCKD患者管理においても有用性のある尿中バイオマーカーとなります。

当科では、臨床研究の中で「L-FABP」を含む評価も行なってきましたが、
「早期腎機能障害の指標」として2011年8月11日より健康保険適応開始となっています。

「L-FABP」には、専用Webサイトがあります。
http://www.anywhere-plus.org/l-fabp/info/
「L-FABP」に関するFAQや各文献の案内が掲載されており、
一般の方でも理解しやすく参考になるページとなっています。
ぜひ皆さんもアクセスしてみてください。  


Posted by 松山医院大分腎臓内科 at 18:28腎臓内科に関する事

2012年08月12日

患者と医療者で「ともに考える」“腎生検の適応”

“患者と医療者で「ともに考える」インフォームド・コンセントの手引き”
文部科学省 科研費事業“ともに考える医療”のための新たな患者-医療者関係構築を目的とした実証・事業研究の一環として2012年2月に作成されました。
研究責任者:尾藤誠司先生(独立行政法人国立病院機構東京医療センター) 

インフォームド・コンセントを本来の目的である、「患者にとって良いことを決めるための相談」のプロセスに向けるよう、舵を切るうえで考えたのがこの手引きです。
手引きは、医療関係者以外に法令の専門家や倫理の専門家、コミュニケーションの専門家や市民活動家等、様々な方とともにつくられています。

この手引きの特徴は、左側は患者さん用ページ、右側は医療者用ページになっていて、
同じ内容をそれぞれ別の立場を想定した上、文言を変えて記載されています。

当院では、“ともに考える医療”Followerとして、医療者だけでなく患者さんにもこの手引きについて認知して頂きたく、外来待合室に配置しています。診療待ち時間などで確認することができます。ご希望の方は、1F受付でお問い合わせ下さい。

手引きは、「もはやヒポクラテスではいられない」21世紀 新医師宣言プロジェクトHP
よりPDFダウンロードすることも可能です。「院長ブログ」に来て頂きました患者さん、医療者さんの皆さんで関心のある方は、是非アクセスしてみてください。
“患者と医療者で「ともに考える」インフォームド・コンセントの手引き”ページ

この手引きの “患者と医療者とのコミュニケーションにおける一般的な注意点”の中で
「患者への推奨事項」として、ささえあい医療人権センターCOMLから発行されている「新・医者にかかる10箇条」についても案内しています。(この10箇条は、COMLが研究班の一員として素案づくりを手がけ、インフォームド・コンセントに患者が主体的にかかわっていくことを願って、1998年厚生省「患者から医師への質問内容・方法に関する研究」研究班から発表されました。)

新・医者にかかるための10箇条 出典 ささえあい医療人権センターCOML(コムル)より
 1 伝えたいことはメモして準備

 2 対話の始まりはあいさつから

 3 よりよい関係づくりはあなたにも責任が

 4 自覚症状と病歴はあなたの伝える大切な情報

 5 これからの見通しを聞きましょう

 6 その後の変化も伝える努力を

 7 大事なことはメモをとって確認

 8 納得できないときは何度でも質問を

 9 医療にも不確実なことや限界がある

10 治療方法を決めるのはあなたです


患者が自分の望む医療を選択して治療を受けるためには、まずは「いのちの主人公」
「からだの責任者」としての自覚が大切です。

患者が主人公になって医療に参加するためにどのような心構えで医療を受ければよいのかをまとめたものです。「いつから」「どこが」「どのように」具合が悪いかを具体的に医師や歯科医師に伝えましょう。

また、これまでにかかった大きな病気や現在服用中の薬の名前、過去に起こした副作用など細かいことを伝えられると、医師や歯科医師の方も判断がしやすくなり、適切な治療を受けられることにも通じます。
 
伝えたい内容や質問したいことは、簡単にメモをしておくと良いでしょう。
診断には、診察後すぐに診断される場合と、いくつかの検査を行いその結果により診断される場合とがあります。

どのような検査や治療が必要かなど自分自身の病気のことですから納得いくまで聞きましょう。大事なことはメモを取っておくようにしましょう。

特に自由診療の場合、検査や治療にかかる費用やその内容などについて十分確認してから治療を受けるようにしましょう。
 
診断や治療に疑問や不安があるから、あるいは、症状が良くならないからと、医師や歯科医師に相談せずに次々に医者を替えても決してプラスにはなりません。治療を振り出しに戻し、新たに余分な医療費がかかることになります。
 
厚生労働省の方針として、初期診療や慢性疾患で症状が安定している場合などは、
「診療所(かかりつけ医)」で治療を行います。


診察の結果、専門的な検査、診察や入院が必要と診断され場合は、診療所から紹介してもらい、治療に適切な機能を有する病院で治療を行います。

このように医療機関は機能分担と相互の連携が行われています。病気になり気になる症状が出た場合、まずは近所の診療所(かかりつけ医)にかかり、必要に応じて紹介状を書いてもらい、適切な医療機関を紹介してもらいましょう。これは、大きな病院に上手にかかるコツとも言えます。

慢性腎臓病CKD診療においても、医療連携が取組まれる様になってきました。

腎臓専門医へ紹介することが望ましい基準(CKD診療ガイド2012より)
1)尿蛋白 0.50 g/gCr 以上 または検尿試験紙で尿蛋白2+以上
2)蛋白尿と血尿がともに陽性(1+以上)
3)40 歳未満 GFR 60 mL/分/1.73㎡ 未満
  40 歳以上 70 歳未満 GFR 50 mL/分/1.73㎡ 未満
  70 歳以上 GFR 40 mL/分/1.73㎡ 未満

腎臓専門医への紹介基準
CKD診療ガイド2012(PDF資料ほか)「CKD患者を専門医に紹介するタイミング」より

腎臓専門医側の診療の中で、上記1)〜 3)に基づき紹介頂いた患者さんに対しての精査(腎生検を含む)及び治療介入を行ないます。

ここでは、患者さん、医療者(特にかかりつけ医)には、
「腎生検適応」についての一般的知識を知って頂きたく、以下にご説明します。

【腎生検の目的】
①腎疾患を病理学的に診断すること。
②予後や治療効果を推定すること。
③治療方針を決定することにあります。

【適応となる病態】
①検尿異常(蛋白尿・血尿)
②ネフローゼ症候群
③急性腎不全
④移植腎などがあげられます。

【禁忌となる病態】
①出血傾向
②機能的片腎
③萎縮腎
④管理困難な高血圧などがあげられますが、絶対的なものではありません。

無症候性血尿は最も頻度が高い検尿異常でありますが、すべてが腎生検の適応となるとは考えられていません。血尿の程度が高度な場合や、尿沈渣所見によって尿中赤血球の形態を観察して変形赤血球が、多数認められる場合には糸球体疾患(遺伝性腎炎[Alport症候群・thin basement membrane disease など] や原発性糸球体腎炎、特に、IgA腎症)を疑い腎生検を施行することが多いです。

しかし、一般的に血尿のみの例では尿路系疾患(腫瘍、結石、感染症など)を鑑別することが最も重要で、泌尿器科的な精査を優先すべきです。蛋白尿のみの例では、定性検査で尿蛋白が(1+)~(2+)程度が持続し、1日尿蛋白量が、0.3 ~ 0.5g 以上(随時尿における尿蛋白/クレアチニン比)の場合には腎生検を施行し、糸球体疾患を鑑別する必要があると考えられています。学校検尿、就職時の検診、生命保険加入時などの情報を収集することも重要です。

血尿と蛋白尿を認める場合には糸球体疾患の可能性が高く、より積極的な腎生検の適応となります。特に、尿沈渣で赤血球円柱を認める場合には腎炎の活動性が高い可能性があり病理学的評価が必要となります。また、それまでに検尿異常の病歴がない例で検尿異常がみられた場合(急性腎炎症候群)も適応となります。
起立性蛋白尿を代表とする良性蛋白尿が明らかになれば、腎生検の適応はありません。

腎生検が禁忌となる病態に関して普遍的に統一された見解はありませんが、最も問題になるのは出血傾向です。血小板数、出血時間、凝固時間などを検査して総合的に評価しなければなりません。腎の数や形態の異常がある場合には経皮的腎生検は原則として禁忌と考えられています。片腎は機能的な意味で、2つの腎臓を保有していても一方の腎が低形成や高度の萎縮腎である場合にも片腎として判断しなければなりません。安全な腎生検の施行という観点からは、経皮的腎生検は原則として禁忌と考えられ、開放腎生検の適応について考慮します。なお、移植腎生検は機能的には“1腎”ですが、経皮的腎生検の適応となります。その他、多発性嚢胞腎、水腎症などは腎生検禁忌です。これらの評価のためには、腎臓超音波検査が有用です。

成人では腎生検の適応を決定するうえで腎径を評価することは最も重要です。当院では、腎臓超音波検査によって、両腎の長・横径を計測しています。腎機能障害が高度でも腎径が3椎体以上(腎臓腫大が確認された)場合には急性腎不全の可能性が高く、腎生検による組織学的評価は原因を究明し、治療方針を決定するうえで有用な場合があります。腎機能障害を認め、腎長径が、超音波検査にて 8 ~ 9 cm未満の腎は、萎縮腎の可能性が高く、出血合併症の危険性が高く、組織学的評価は困難な場合が多く、腎生検の有用性は低いと考えられています。


参考文献:腎生検ガイドブック―より安全な腎生検を施行するために―
(編集 日本腎臓学会・腎生検検討委員会:発行2004年5月)

腎生検によって得られた組織は、光学顕微鏡診断に加えて、検体を蛍光染色で染めて免疫的診断も行ない、さらに電子顕微鏡での最終診断を行ないます。

当院においては、外来診療の中で「腎生検適応の有無評価」を行なっています。
「腎生検適応」となった患者さんは、大分大学医学部附属病院腎臓内科にて腎生検を行なっています。(2012年8月現在)

患者さん(職場検診や特定健診など)、医療者(特にかかりつけ医)の方で、尿蛋白2+以上または、蛋白尿と血尿がともに陽性(1+以上)を確認された場合は、「腎生検適応」となる場合がありますので「松山医院大分腎臓内科」までお問い合わせ下さい。


参考サイト
「もはやヒポクラテスではいられない」21世紀 新医師宣言プロジェクトHP
“患者と医療者で「ともに考える」インフォームド・コンセントの手引き”ページ
COML(コムル)とは?
私たち一人ひとりが「いのちの主人公」「からだの責任者」。そんな自覚を持った「賢い患者になりましょう」を合言葉に、COMLは1990年9月に活動をスタート。
COML(コムル)厚生労働省PDF資料より
日本腎臓学会発作成の診療ガイドライン
CKD診療ガイド2012 日本腎臓学会(PDF資料ほか)
蛋白尿の読み方「尿蛋白/尿中クレアチニン比」の意味「院長ブログ」2012年4月23日号
「学校検尿」は何のために行われるの?「院長ブログ」2012年4月5日号  


Posted by 松山医院大分腎臓内科 at 22:23腎臓内科に関する事

2012年07月03日

歯周病(病巣感染)と生活習慣病(全身疾患に及ぼす影響)

「身体のどこかに限局した慢性感染病巣(原発病巣)があって、それ自体は無症状か軽微な症状を呈するに過ぎない。しかし、これが原因になって原発病巣とは直接関係のない遠隔の諸臓器に反応性の器質的あるいは機能性の障害を起こす病像、いわゆる二次疾患をさす」と病巣感染は定義されている。

私事ですが、右下側にコンディション不良の歯「歯周病」が1本あり、歯科治療の経過で主治医に1年以上これまで何とか抜歯しない方法で経過Follow頂いていましたが、コントロール不良遷延化にて今回、半抜歯(6歳臼歯は根が2つあり片方を抜歯)施行されました。

「歯周病」について確認してみます。日本歯科医学会の「歯周病の診断と治療の指針」
によると、「歯周病」は歯周疾患ともよばれ、歯肉、セメント質、歯根膜および歯槽骨よりなる歯周組織に起こるすべての疾患をいう。

ただし、歯髄疾患の結果として起こる根尖性歯周炎、口内炎などの粘膜疾患および歯周組織を破壊する新生物(悪性腫瘍など)は含まない。

「歯周病」は、プラーク中の口腔細菌が原因となって生じる炎症性疾患であり、「歯肉炎」と「歯周炎」とに大別される。

さらに、「歯周病」には非プラーク性歯肉病変、歯肉増殖、壊死性歯周疾患、歯周組織の膿瘍、歯周‐歯内病変、歯肉退縮および強い咬合力や異常な力によって引き起こされる咬合性外傷が含まれる。

また最近、「歯周病」は「生活習慣病」として位置づけられ、食習慣、歯磨き習慣、喫煙、さらに糖尿病などの全身疾患との関連性が示唆されており、患者個人の生活習慣の改善、「自助努力なくして歯周治療の成功はあり得ないと言ってもよい。」とされている。

「歯肉炎」の特徴
種々ある歯肉炎のうち、主なものは「プラーク性歯肉炎」。
口腔清掃を中止してプラークが歯面に付着・増加すると2~3 日で歯肉に炎症徴候が生じる。プラークは歯・歯肉・修復物および補綴物などに付着する多数の細菌とその代謝産物から形成される。これには、プラークを増加させたり、プラークの除去を困難にする因子である「プラークリテンションファクター」および患者の生活習慣が大きく関与する。

プラークリテンションファクター:プラークコントロールを困難にしたり、プラークの停滞を促進する誘因となる「歯石・歯列不正・小帯異常・不適合修復・補綴物などがあるとプラークを付着・増加させたり、プラークコントロールを阻害する」これらの因子のことをいう。

口腔衛生習慣の改善により、日本人の虫歯は減少してきました。

しかし、「歯周病」はあまり減少することなく、現在でも30歳以上の成人の約80%が「歯周病」にかかっており、歯の喪失原因の第1位になっています。
日本臨床歯周病学会では、「一般の皆様へ」のQ&Aサイトを開設しています。皆さんも自己チェックをお勧めします。

また、日本臨床歯周病学会では、「歯周病が全身に及ぼす影響」について
以下疾患について分かりやすくまとめています。コチラも確認してみましょう。
歯周病と関連する全身疾患
◇心臓疾患(狭心症・心筋梗塞)・脳血管疾患(脳梗塞)
◇糖尿病
◇妊娠(妊娠性歯肉炎・低体重児早産)
◇誤嚥性肺炎
◇骨粗鬆症
◇関節炎・腎炎
◇メタボリックシンドローム

そして、慢性腎臓病(IgA腎症)における病巣感染の好発部位は扁桃、副鼻腔、鼻咽腔、および歯科領域です。病巣感染については、「IgA腎症根治治療ネットワーク」のサイト内で詳細に解説されています。

当院での「IgA腎症」に対する治療は、「IgA腎症根治治療ネットワーク」に準じて実施しています。「IgA腎症」の方は、是非サイトチェックをお勧めします。

また、「IgA腎症根治治療ネットワーク」の代表で、「扁摘パルス療法」の師匠である堀田修先生は、仙台市内の自院において診療展開されています。

堀田先生は、歯科治療にも取組まれています。WEBサイトのインフォメーションに示されていましたが、糖尿病・慢性腎臓病・膠原病などの全身疾患に対する治療の一環として「3Mix-MP法」を中心とした「内科的歯科治療」を実施しているところには、「木を見て森も見る医療の実践」を掲げる先生の真摯な姿勢であり、深く感銘を受けました。

「3Mix-MP法」は、新しい治療法となります。大分市にはこの方法で治療をされる歯科医院は未だ無い様です。自身の歯のコンディションについては、改善しない慢性感染状態の遷延化した結末となる、いわゆる二次疾患発症も危惧し、根治療法(今回半抜歯)を主治医に施行して頂きました。

「IgA腎症」における「扁摘パルス療法」は、多くの腎臓専門医に認知されてきましたが、歯科疾患における「3Mix-MP法」についても今後の展開に注目していきたい治療法です。

いずれにしても「歯周病」は、「生活習慣病」として捉え、日々の家庭生活における自己管理をシッカリ行う(自身については、特に睡眠時間をある程度は確保する!)ことが最も重要であることを身をもって確認しました。

しかし、レセプトシーズン「眠れない夜」が今日も続きます。


関連サイト
日本歯科医学会
日本臨床歯周病学会
IgA腎症根治治療ネットワーク
堀田 修クリニックーHOCー  


Posted by 松山医院大分腎臓内科 at 02:14腎臓内科に関する事

2012年06月20日

透析患者さんを対象とした「透析治療についての意識調査」

社団法人全国腎臓病協議会(本部:東京都)とバイエル薬品株式会社(本社:大阪市)は、透析治療をより効果的に進め、患者さんのQOL向上の一助になることを目的に、透析患者さんを対象に「透析治療についての意識調査」を行ない、2012年5月31日に結果を発表しています。

■ 透析治療に関する意識調査

<調査概要>

調査対象:現在透析治療を受けている患者(20代~70代男女)

調査方法:インターネット調査

有効回答:200人

調査地域:全国

調査期間:2012年4月19日~23日

◇ 透析で負担になっていることで最も多い回答は、「透析時間が長い」が60.5%、「透析の回数が多い」で47.0%でした。

◇ 透析治療に関するガイドラインについては、「知っている」と答えた患者は約4割。また、ガイドラインに基づく治療を希望する患者は6割あり、治療についての情報が充分に行き渡っていない面も露呈されました。

◇ 患者は、医師からの薬の効果や副作用についての充分な説明を希望しており、自分でも透析や治療薬について調べ、勉強するなど、治療に真剣に取り組む様子がうかがえる結果でした。

◇ 全腎協の宮本髙宏会長は、「今回、日本透析医学会の治療ガイドラインが改訂され、透析医療において、リンの厳格な管理が優先されることが指針として示されました。他のガイドラインの策定とともに、患者にとって提供される医療内容(質)が明確になることは、個々の治療生活の向上に繋がると考えられます。一方、今回の調査を通じて、患者自身の希望と治療に対する姿勢、医療者との間の情報の格差等が見られました。調査結果を基に、治療情報の収集と活用、医療者との関係をより深める等、患者にとって今後、より安心で充分な治療が受けられる環境整備に繋げていきたい」と述べています。 


医師・看護師・臨床工学技士・管理栄養士・薬剤師など透析管理に関わる私たち医療者は、検査結果や治療内容、日常生活状況などについて、患者さん各々の理解度や合併症状況に応じて画一的ではないテーラーメイド的多様化した介入が必要であり、日々の透析治療患者管理の中で確認していかなければなりません。

■ バイエル薬品株式会社 透析治療についての意識調査の詳細結果


postscript
東京と兵庫の2都県を対象とした患者調査の結果(厚生労働省にて公表)
「透析施設変更考える理由、3割は医師に不満」【2012年6月14日】
全国約10万人の腎臓病患者からなる「全国腎臓病協議会」は14日、透析患者が通院施設を変えようと考える理由の3割が医師への不満だという、東京と兵庫の2都県を対象とした患者調査の結果を公表した。同協議会の宮本高宏会長は、透析治療は長期に及ぶことが多いため、医師との関係が悪くなることを恐れて、不満や要望を伝えにくく感じているのではないかとみている。また、「患者自身が情報収集することで、医療者とコミュニケーションでき、治療の質が高まるのが好ましいが、患者が(一方的に医療者から)情報をもらう関係が固定化している」と、調査結果を分析。さらに、「(患者と医療者間の)関係と情報の流れが一方的になるのは、今後変えていかなければならない」と述べた。【佐藤貴彦】
◇ケアネット(医療ニュース)◇ヤフーニュース医療介護CBニュース

医療機関は、これらの患者意識調査結果に目を向けることも必要です。ここに取り上げました調査結果は、いずれも透析患者さんを対象としたものですが、透析医療に限らず医療者は、いつも新鮮なまなざしで患者管理を行なう姿勢が大切であり、一読頂きたい関連のWEBニュースをpick upしました。

関連サイト
◆全国腎臓病協議会
◆バイエル薬品株式会社 プレスリリース
◆医療介護CBニュース-キャリアブレイン  


Posted by 松山医院大分腎臓内科 at 09:00腎臓内科に関する事

2012年06月10日

塩を減らそうプロジェクト

慢性腎臓病の治療において、血圧を適正値に管理することは重要です。
日本腎臓学会は「CKD診療ガイド2012」を6月1日に発表しました。
慢性腎臓病患者の目標血圧管理も改訂されました。

これまでは「蛋白尿1g/日以上の場合、目標血圧は125/75mmHg未満」でしたが、
「全CKD患者の診察室目標血圧が130/80mmHg以下に改訂されています。
降圧薬の第一選択は、糖尿病および0.15g/gCr以上の蛋白尿を有する患者では、
ACE阻害薬・ARBを第一選択。
蛋白尿が0.15g/gCr未満で、糖尿病でない患者の場合、
降圧薬の種類は問わないこととしています。
高度蛋白尿(0.50g/gCr以上)を呈する若年や中年患者では、
ACE阻害薬・ARBの使用を勧めています。
高齢者の場合は慎重な降圧を求め、140/90mmHgを暫定目標に降圧し、
腎機能悪化や虚血症状がないことを確認後、130/80mmHg以下へ降圧としています。

そして、食事療法は、慢性腎臓病管理の中で重要な要素となります。
基本事項は、
① 必要エネルギーを確保する(*1)

② たんぱく質を控える(*2)

③ 塩分を控える(食塩摂取量の基本は3g/日以上6g/日未満)
④ カリウムを控える(*2)
*1 肥満がある場合は、制限します。
*2 腎機能の低下の程度(病期)により指示量が異なります。
今回は、上記①〜④の項目の中で③塩分を控えるについて確認してみます。
日常診療で管理栄養士に塩分制限6g/日未満!の指示をし、栄養指導を行なっています。
外来では、24時間蓄尿検査を実施し、適切な食事管理が実行できているか確認します。

WEBサイト上では、「塩を減らそうプロジェクト」という団体が設立されています。
2010年1月に設立、代表顧問は、荒川規矩男先生(福岡大学 名誉教授、日本高血圧協会 理事長)です。余談ですが、荒川先生には、福岡大学において臨床及びベッドサイド講義で大変お世話になりました。
プロジェクトでは、治療の基本である、「一、に減塩、二、に運動、三、に薬物治療」をもとに、塩の摂取を減らすとともに、塩を体外に排出することで、体内減塩化を図ることの重要性を啓発しています。

日本では約4,000万人いるといわれる高血圧は、サイレントキラー であるために早期治療が行なわれず、放置された終末像としては、脳卒中・心筋梗塞・人工透析を必要とする慢性腎臓病などを合併します。高血圧を引き起こす主な要因の一つに、食塩の過剰摂取が挙げられています。世界的に食塩摂取量が多い日本人は、減塩のための工夫が必要です。
※ サイレントキラー:“沈黙の殺人者”については、2012年5月17日の院長ブログ
ウデをまくろう、ニッポン!5月17日「世界高血圧デー/高血圧の日」にアクセスを!

「塩を減らそうプロジェクト」では、
分かりやすく「塩」と「高血圧」のことを考える啓発活動を行なっています。
「塩と高血圧」講義
・塩の摂りすぎは、高血圧の主な原因!
・食塩摂取量の多い日本人
・高血圧ってなに?
・高血圧がもたらす病気
・血圧を下げる3つのポイント

サイト内は、基本的な血圧の知識を確認できるだけでなく、「食事で減塩!コンテンツ」の内容には、「食べたものを入力するだけで、塩分量・栄養バランスを計算!」、「自宅でカンタン減塩レシピ集」といった考えることができる、学習できるサイト構成となっており、多くの方にチェックして頂きたい内容となっています。

「塩を減らそうプロジェクト」「ウデをまくろう、ニッポン」など「高血圧」のことを考える啓発サイトは、一般の方に理解しやすい言葉やコンテンツで構成されています。
「特定検診」や「職場検診」で血圧異常高値を指摘された方は、医療機関に行くことはもちろん大切な事ですが、自身で血圧について学習し、自己管理をしていく事も重要です。血圧が気になる方は、ぜひサイト確認してみて下さい。


TIPS
「啓発」と「啓蒙」言葉の使い方。
以前出席した東京でのある「慢性腎臓病対策会議」の議論の中、「啓蒙」という言葉は、悪意で使う人は先ずいないと思いますが、「蒙」の意味は、「無知なこと」をさすことから、「啓発」と表現するべきであることを確認しました。
何気なく使われている「啓蒙」という言葉について確認してみました。
「広辞苑」によると、
啓蒙:無知蒙昧(むちもうまい)な状態を啓発して教え導くこと。

無知蒙昧(むちもうまい):才知や学問のないこと。愚かで文字の読めないこと。また、その人。
啓発:知識をひらきおこし理解を深めること。

以上の解説からも「啓蒙」という言葉は、公的立場で仕事を行なう医療者や官公庁では控えるべきであり、「啓発」とすべきことが理解できます。


関連サイト
塩を減らそうプロジェクト
血圧ドットコム
24時間蓄尿検査「ユリンメート®P」について  


Posted by 松山医院大分腎臓内科 at 03:34腎臓内科に関する事

2012年05月17日

ウデをまくろう、ニッポン!「世界高血圧デー/高血圧の日」

国際的な「高血圧」に関する医学情報交換の場として1966年設立の「国際高血圧学会(ISH:International Society of Hypertension)」があり、国際ガイドラインを作成しています。その関連団体として一般市民啓発活動を目的に1988年に設立されたのが、「世界高血圧連盟(WHL:World Hypertension League)」です。そして、「世界高血圧連盟(WHL)」によって「高血圧」及びその管理に関する啓発を目的に「世界高血圧デー:World Hypertension Day」が、2005年5月17日に制定されました。

日本での「高血圧」に関する動きは、現在の「日本高血圧学会JSH:The Japanese Society of Hypertension」が1978年に設立。そして、学問の成果を国民に還元し、国民の福祉に寄与する専門の活動機関として「日本高血圧協会JAH:The Japanese Association of Hypertension」が、「日本高血圧学会」から立ち上げられ、2006年より活動開始。2007年5月17日の「世界高血圧デー」に合わせて実施した高血圧の理解を深め、自分の健康のために定期的な血圧測定を促す啓発キャンペーンが、「ウデをまくろう、ニッポン!」です。そして、両団体が、毎年5月17日を「高血圧の日」に制定することを日本記念日協会に申請し、2008年から正式に「世界高血圧デー」=「高血圧の日」と定められています。

それでは「高血圧症」は、どのような病気と関係があるのでしょうか?
高血圧コントロールの不良状態が長期間続くと全身の血管が動脈硬化をおこし、心血管病(心筋梗塞や脳梗塞などCVD )の原因や、腎臓の細小動脈の束で動脈硬化がおこる高血圧性腎硬化症などの慢性腎臓病(CKD)の原因となります。

高血圧症は、初期の段階では、自覚症状が全く無いため職場検診などで発見されることもあります。このため、サイレントキラー ※※とも呼ばれています。コントロール不良の高血圧症は、慢性腎臓病(CKD)を悪化させ、末期慢性腎臓病である「慢性腎不全(人工透析療法が必要)」の原因にもなります。

以上のように高血圧症は、腎臓病との関係があるだけでなく、全身の血管病と深い関係があります。これらの高血圧関連合併症を予防するためWHO(世界保健機関)や「国際高血圧学会(ISH)」、「日本高血圧学会JSH2009」による以下のガイドラインを指標に管理(生活習慣の改善・食事療法・薬物療法)を行なう必要があるのです。


血圧の目標値は年齢や合併症により異なります。
40代の方では診察室での血圧が130/85mmHg未満、家庭での血圧が125/80mmHgが目標値です。糖尿病や慢性腎臓病、心筋梗塞がある方は、上記表のように目標値が厳しくなります。
注:診察室血圧と家庭血圧の目標値の差は、診察室血圧140/90mmHg、家庭血圧135/85mmHgが高血圧の診断基準であることから、この二者の差を単純にあてはめたものです。

“定期検診を受けましょう”
「高血圧」かどうかを知るためには特定健診や職場検診などで血圧を測定するか、家庭で血圧を測定することが必要です。血圧は年齢とともに高くなります。症状がないからといって検診を受けていない方の中に実際は、「高血圧」の方が潜んでいる可能性もあり、これを放置しておくのは大変危険です。皆さんも定期検診は、必ず受けましょう。
当院では、腎臓病早期発見のための無料検診(IKEAJ-KEEP)を行なっています。

“家庭で血圧を測定しましょう”
特に高血圧かどうか分からない方、検診で血圧が高いと指摘されるけど医師による指導・治療を受けられてない方は、“家庭血圧測定”が必要です。「日本高血圧学会」では、高血圧患者さんをはじめ、一般市民の皆さんに血圧について関心を持って頂き、家庭血圧を正しい方法で測定して頂くことをお勧めするため「家庭で血圧を測定しましょう」というパンフレットを作り、“家庭血圧測定”の大切さをわかりやすくまとめています。一読してみて下さい。また、当院の腎臓内科外来では、患者さんに「家庭血圧ノート」をお渡ししています。

CVD:Cardio Vascular Disease(心血管病)
2003年に「米国心臓病学会AHA:American Heart Association」において循環器専門医の立場から慢性腎臓病(CKD)は、心血管病(CVD)発症のリスクであるとの声明が発表されました。慢性腎臓病(CKD)になると血管病および心臓病を合併しやすいことが明らかになり、動脈疾患、心臓弁膜疾患、心不全、不整脈、脳血管障害(脳出血・脳梗塞)、末梢血管障害のいずれかもしくは複合的なものを心血管病(CVD)と総称する疾患概念が提唱され、心血管病(CVD)も国際的な用語となりました。さらに、多くの慢性腎臓病(CKD)患者さんが、末期腎不全(腎代替療法が必要)に至る前に心血管病(CVD)で命を落していることも判明しました。また、透析患者さんの主な死亡原因も心血管病(CVD)です。慢性腎臓病(CKD)の合併症治療において、心血管病(CVD)管理は、最も重要な臨床的課題であり、循環器専門医(心臓血管外科/循環器科)との医療連携(病診・診診連携)が重要となっています。

※※ サイレントキラー:“沈黙の殺人者”
それは普段は症状がなく沈黙しており、脳卒中や心筋梗塞・心不全・腎不全など生死に関わる心臓・腎臓・血管に障害が出て初めて症状が出るため“沈黙の殺人者”といわれます。

postscript
「大人4人に1人が高血圧 WHO、肥満も10%以上」(共同通信社 5月17日(木) 配信より)
世界保健機関(WHO)が16日発表した2012年版の「世界保健統計」によると、世界の25歳以上の大人のうち、高血圧と診断される人口の割合は08年に男性が29.2%、女性が24.8%だった。WHOが高血圧の割合を統計化したのは初めて。世界全体で4人に1人が高血圧ということになる。
日本は男性26.4%、女性16.7%で世界平均より低いが、心臓病などにつながる高血圧がまん延している実態が浮き彫りになった。
20歳以上の大人のうち、肥満と診断される人口の割合は08年の世界平均で男性が10%、女性が14%。日本は男性5.5%、女性3.5%だった。
慢性疾患による死者は08年、死者全体の6割以上に当たる3610万人。WHOは対策として、低中所得国では適切な医療の拡大を、高所得国では食事管理、適度な運動、禁煙をそれぞれ挙げている。
統計では、高血圧は最大血圧が140以上、または最小血圧が90以上と定義。肥満に関しては体格指数(BMI)が30以上と定めている。【ジュネーブ共同】

関連リンク
日本高血圧協会
日本高血圧学会
世界高血圧連盟(WHL:World Hypertension League)
国際高血圧学会(ISH:International Society of Hypertension)
血圧ドットコム  


Posted by 松山医院大分腎臓内科 at 20:25腎臓内科に関する事

2012年04月30日

Kt/V・透析時間・血液流量・膜面積・美ら海VSうみたまご

週3回の血液透析での透析量(どのぐらいの透析ができたのか?体内にたまってきた老廃物がどのくらい取り除く事ができたのか?)の治療効果の目安として、Kt/V(ケーティ オーバー ブイ)と呼ばれる指標があります。各透析室では、毎月1回必ず透析前後の血液検査が行なわれます。検査の意図は、どの程度の透析量があるのかを確認するためです。

Kt/Vは、「K」=ダイアライザーの尿素クリアランス(透析単位時間当りの尿素を取り除いた体液量)、「t」=透析時間、「V」=体内水分量を意味します。
よって、「Kt」=透析t時間で尿素を取り除いた体液の延べ総量となります。
しかし、個々の身体の大きさによって、患者さん自身の尿素の除去率が異なります。
したがって、大柄な患者さんでも小柄の患者さんでも等しく評価していくために、「Kt」を体内水分量「V」で除した(割った)ものKt/Vとし透析量指標とします。Kt/Vは、
『単位体積(V)あたりの、1回の透析で尿素を取り除く事ができた体液の延べ総量(Kt)』を意味します。

しかし、「K」=ダイアライザーの尿素クリアランス及び「V」=体内水分量をそれぞれ実測し、Kt/Vを算出する方法は、現実的でありません。そこで、解りやすく身体を体液が入っている「水槽」と例えると、血液透析では、「水槽」から体液(蓄積した老廃物≒血中尿素窒素)をろ過器(ダイアライザー)に送りこみ、ろ過器で老廃物(尿素)を取り除いたあと、元の「水槽」である身体に戻す一連の治療過程を数学的に求めます。

日本透析医学会統計調査委員会でのKt/V計算式(Shinzatoの式)が、日常診療で使用されています。透析時間、透析前後の体重、透析開始前と透析終了時の血中尿素窒素(BUNビーユーエヌ)の値から計算して求めます。Kt/Vの値が大きいほど透析効率が良い(しっかり透析ができている。老廃物をたくさん取除くことができている)ということになります。患者さんに解りやすくKt/Vを求めるための入力フォームを備えたホームページ(CKD・透析 計算ツール)があります。検査結果の数値を入力して求めることが可能です。

Kt/Vについてもっと短絡的に表現すると、10リットルの「水槽」の水を「ろ過装置」を通して老廃物を完全に取り除き、10リットルのキレイな水に浄化した状態、この状態が、Kt/V=1となります。Kt/V=2とは、10リットルの「水槽」の水を2倍分(20リットル分)浄化した状態です。つまり、Kt/Vは、「水槽」の中の水が「水槽」の何倍の水分量が時間「t」の間に完全に浄化されたかを示す指標です。

それでは、Kt/V=1は、生体腎の糸球体濾過量GFRに換算するとどの程度になるでしょうか?そこに触れた文献としては、木村玄次郎先生が、1994年に臨床透析Vol.10No.11「血液透析における指標」で解りやすく解説していました。週3回透析におけるKt/V=0.9という標準化透析量は、尿毒症に陥らない最低限の腎機能に相当し、糸球体濾過量GFRにして10ml/minと示しました。単純換算できないと思いますが、「Kt/V」×10≒糸球体濾過量GFR(ml/min)相当でしょうか。
Kt/V=0.9≒糸球体濾過量GFR10ml/minならば、少なくとも最低限の腎機能の2倍は維持したくKt/V=0.9×2=1.8≒(GFR20ml/min)を目指したいところです。

水族館の「水槽」について確認してみましょう。「水槽」で使われている水は、水族館のバックヤードに設置されている「ろ過装置」(透析治療に例えるとダイアライザー)によってキレイにされています。水族館の中で水をひとめぐり循環させることの繰り返しによって水をキレイに維持します。循環するスピード(透析に例えると血液流量)は、約1000トンの水を約1時間程度で全て入れ替えてしまう処理量との事です。「水槽」の中で生活する生物を元気に維持させていくためには、いつも水をキレイに維持する必要があります。大自然の海であれば絶えず自然の力(自分自身の力)でキレイな水に維持できますが、「水槽」の水は人工的にキレイに維持していかなければなりません。つまり、「ろ過装置」の力に完全に頼るしかないのです。

現在の血液透析療法は、「水槽」の中の体液を1日おき(週3回)で「ろ過装置」に通す方法となります。ろ過装置(ダイアライザー)には2本のラインがつながっています。それぞれシャントと接続されています。老廃物がたまった体液の取り出し用とろ過装置(ダイアライザー)でキレイに清浄化された体液を戻し用として2本のラインが必要です。透析患者さんの血液もできる事なら水族館のように休むことなく (元気な腎臓と同様)24時間循環させて体液をキレイに維持しておくことが望ましいです。しかし、日本の透析施設の多くは、4時間から5時間の治療時間を余儀なくされています。

大きな「水槽」である沖縄の「美ら海水族館」と、比較すると小さな「水槽」となる大分の「うみたまご水族館」では浄化能力に明らかな差があります。大きな「水槽」には、時間あたりの処理する力も高いレベルが要求されます。ちなみに「美ら海水族館:水量7,500t(日本一)」、「うみたまご:水量1,250t」となっています。人間に例えると時間あたりの処理する力(透析治療に例えると血液流量)は、血液浄化の過程において非常に大切な要素となります。

透析治療は、家庭血液透析を除いた場合、一般的に週3回しか行なわれません。したがって、1回あたりの透析量をしっかり確保していくために、血液流量はできる限り確保する事が望まれます。日本は、画一的に血液流量200ml/minで行なわれています。「ろ過装置(ダイアライザー)」の技術的限界もあります。しかし、食事もしっかり摂取できて元気に社会活動をされている患者さんにとっては、1回の透析での老廃物を取り除く量は、可能な限り上げていく必要があります。「美ら海水族館」の体格の方と大分の「うみたまご水族館」の体格の方に、同様の画一的な治療は行なえません。

「ろ過装置(ダイアライザー)」の性能は、私たち医療従事者は、「クリアランス」と呼んでいます。その意味は、デパートでの「クリアランスセール」と同様、ある商品(透析治療では老廃物)を一掃してしまうことです。ただし、「ダイアライザー」の性能(クリアランス)には、血液流量、透析液流量、膜面積、総括物質移動係数などの様々な複合的要素が影響しています。各社の「ダイアライザー」は、血液流量や透析液流量を上げることで「クリアランス」も上昇する変化を示しますが、流量を10%上げれば「クリアランス」も等しく得られるわけではなく曲線的な変化であり、さらに流量を上げてもそれ以上の効率上昇は期待できない性能限界点があります。

「ダイアライザー」の性能が、ある程度規定されてしまうことから、十分な透析量を確保していくためには、「ろ過装置」以外の透析条件が重要となります。血液流量については、非常に小さい体格でかつシャント状態が不安定な患者さんであれば、200ml/min程度で対応する場合もあります。しかし、一般的にシャント問題が無く、シャント針のゲージ(大きさ)UP可能な患者さん、しっかり栄養摂取ができて、筋肉量もあり、老廃物がたくさん蓄積していく患者さんの血液流量は、300から350ml/min程度を目標にしていきます。

そして、可能な限り「透析時間」も確保します。米国では、週当りの「透析時間」が、1960年代に25〜40時間あったものが、1980年代は15時間、1990年代は8時間に短縮していきました。膜面積の大きなダイアライザーを選択し、血液流量を上げて尿素クリアランス(K)を上昇させ、そのかわりに「透析時間(t)」を短縮して高いKt/Vを得る様な「短時間透析」が試みられましたが、同レベルのKt/V値を得たとしても、生命予後が悪化することが判明しています。「透析時間」が、Kt/V値とは独立して生命予後に影響を与えています。この結果、米国は、「透析時間」の短縮化が、生命予後不良に影響を及ぼし、先進国中で最低の治療成績になりました。例えば、週3回3.5時間以下の短時間透析では、4時間以上の透析に比較し、死亡率は推定2倍になると報告しています。
日本でも同様に、透析医学会統計調査委員会による「透析時間と死亡の危険度」は、4~4.5時間の透析を行っている患者さんを標準とすると3.5~4時間未満の患者さんでは1.4倍、3~3.5時間では2.7倍に危険度が高くなっていくことが示されました。患者さん自身、治療にもっと向き合って「透析時間」は最低4.5時間以上を維持していくべきです。

2003年東腎協総会において「かもめクリニック」金田浩先生が、患者さんに向けて長時間透析について、自院臨床データとフランスのCharra先生の報告も含めて「4時間では透析不足?!―いま、長時間透析が求められるわけ―と題して講義されています。

日本透析医学会統計調査委員会では、「透析量Kt/V」についても報告しています。「Kt/V値1.0-1.2」を標準とした場合、1.6-1.8では大幅に死亡の危険性が減少することを示しています。一方、Kt/V値0.8以下では2倍以上の死亡する危険性が上昇することも示しています。このことからKt/V値1.6以上を目指した治療を行なう必要があります。

しかし、McClellan先生やChertow先生らは、透析量があるレベルを超えていくと死亡の危険性が逆に増大することを報告しています。問題点は、透析量が高効率や長時間によるものではなく、筋肉量が少ないこと、つまり体液量も少ないことであり、見かけ上、Kt/V値(尿素除去率)は大きくなることになります。筋肉量が少ない患者さんは、同時に栄養状態が悪いことがほとんどで、治療過程で透析低血圧や、電解質バランスも崩しやすく、CVD(心血管病:心疾患や脳卒中等)合併症を起こし、死亡リスクを増大させている可能性を報告しています。透析量を上げていった場合、アミノ酸等の生体にとって必要な栄養素も失われやすくなります。栄養状態不良の患者さんは、さらに悪化していく可能性があり、ご高齢で食事摂取量が低下し、筋肉量・運動量が落ちてきている患者さんの透析条件は見直す必要性があります。(今回は触れませんでしたが、Shinzatoの式では、Kt/V値だけでなくnPCR標準化蛋白異化率が同時に算出されます。蛋白摂取量を意味しており、栄養指標となりますが、他に%クレアチニン産生速度も確認し、総合的に判断します。)

また、残存腎機能(自尿が1000ml/日前後)がある患者さんは、Kt/V値は低めの値となります。この場合は、1.6以上を維持できなくても問題ないと考えます(日本透析医学会統計調査委員会結果からは、最低Kt/V値1.2以上を目標)。残存腎機能がない状態でKt/V値が低値となる患者さんについては、透析条件を見直す必要性があるかもしれません。透析時間、血液流量、膜面積などの確認をします。

Kt/V値は体格に左右されます。「美ら海水族館:水量7,500t(日本一)」の様な大きな体格と、比較すると小さな体格となる大分の「うみたまご水族館:水量1,250t」では、大きな体格の患者さんのKt/V値の方が低値となる傾向があります。「水槽」が大きくなると取り除く処理量(老廃物)も多くなり、処理能力(ろ過装置の性能及び流量)だけでなく、処理時間(治療時間)も長く必要とします。透析療法では、上述の「ろ過装置(ダイアライザー)」の性能が、ある程度規定されることから、大きな体格の患者さんでのKt/V値が低値となり易く、対策としては、まず透析時間5時間の確保、血液流量と膜面積を最大限に上げていく必要があります。キレイに維持することによって「ジンベイザメ」達は、元気に活動できます。人間に例えるとヘモグロビンや免疫機能など生体を維持していくのに重要な成分が元気に活躍することが可能になります.十分な透析量を確保することで腎性貧血の改善も期待できます。

Port先生らは、「男女別の至適透析量」が異なる可能性があることを示しています。「女性は、尿素除去率が60%の場合より75%を超えて増大していくとともに死亡のリスクも明らかに大きく低下していくのに対し、男性では、尿素除去率が 75% を超えた場合の死亡のリスクの低下は女性ほど認められていません。患者の性別によって至適透析量が異なる可能性があります。

透析液の清浄化や長時間透析が、腎性貧血治療に有効であるばかりか、生命予後にも有効でかつ、栄養障害や炎症にも関連しているとの研究がなされ、そして、血液透析濾過(HDF)が通常の血液透析より有効であると報告されています。透析液の清浄化を確実に行ない、オンラインHDFを施行できる環境にしていくことが望まれる時代となってきました。私が所属する「大分大学医学部総合内科学第二講座腎臓班(友雅司准教授)」では、これまでも「オンラインHDFは、病態の存在とは無関係に“将来の合併症予防、有効なQOLの長期的維持を目的とする症例”に適用すべきである。」論じてきましたが、平成24年(2012年)4月診療報酬改定においてこの考え方が承認され“オンラインHDFに関しては、適応疾患による制限がない”ことになりました。

当院では、2010年より保険適用となったオンラインHDFをはじめ個々の病態に合わせた血液浄化方法、治療環境の構築を目指しています。“オンラインHDFに関しては、適応疾患による制限がない”ことから透析治療の導入期からこれらを踏まえた全身管理を行うことで従来の透析合併症の発症抑制が期待できます。

postscript
世界最大(2012年4月30日現在)の水族館は、米国の「ジョージア水族館」で水量は、なんと23,500t。「美ら海水族館」の約3倍の大きさを誇っています。


関連リンク
特集 透析医療における臨床研究の現状と課題
Ⅰ 透析療法(3)透析処方:血液(濾過)透析 友雅司 大分大学医学部附属病院腎臓内科 臨床透析2008 Vol.24 No.4 ©日本メディカルセンター
愛知県腎臓病協議会
CKD・透析 計算ツール
透析百科
沖縄美ら海水族館
大分マリーンパレス水族館「うみたまご」
ジョージア水族館(水量23,500t)世界最大  


Posted by 松山医院大分腎臓内科 at 18:32腎臓内科に関する事

2012年04月23日

蛋白尿の読み方「尿蛋白/尿中クレアチニン比」の意味

 健診の季節となりました。学校検尿、職場検診、特定健診では、尿検査が必ず実施されます。尿検査の結果で「尿蛋白1+以上」を指摘された場合、自覚症状が無くても医療機関(腎臓内科)を受診しましょう。再検査では、尿定性検査(+かーの検査)に加えて蛋白尿の定量評価(実際の量)である「尿蛋白濃度と尿クレアチニン濃度の比」をみる検査「尿蛋白/尿中クレアチニン(尿P/C)比」の確認をしましょう。

腎臓の働きが正常の場合は、尿中にはほとんど蛋白は排泄されません。
それでは蛋白尿を認める場合は、どの様な病気を疑うのでしょうか?
血液は、腎臓で濾過されています。その中でも血中の蛋白質を尿へ排泄しないようにフィルターの役割をする毛細血管でできた「糸球体」という部分があります。この部分の障害が、蛋白尿をきたすことから「糸球体腎炎」と呼びます。特に尿潜血を伴う場合は、「糸球体腎炎」を想定して精査していきます。他に「多発性骨髄腫」などの病的に血中の蛋白質産生が亢進している病気、この他には、尿細管という場所の障害による「尿細管性蛋白尿」、結石や腫瘍など尿路系疾患由来の「炎症性蛋白尿」があります。しかし、「起立性蛋白尿」などの「生理的蛋白尿」という病的では無い蛋白尿を除外することも大事です。

 尿蛋白定性の変化(ー、±、+)は、尿蛋白の実際量の増減でも変化しますが、尿の希釈や濃縮の変化(飲水量の影響で尿が薄くなったり濃くなったりする変化)でも変動します。このような点から、尿定性検査(+かーの検査)は、あくまでもスクリーニング的検査となります。したがって、尿蛋白陽性「尿蛋白1+以上」を指摘された場合、医療機関(腎臓内科)では、早朝第一尿を含む複数回の検査を行ない、持続性蛋白尿の有無を定量的検査「尿蛋白/尿中クレアチニン(尿P/C)比」で確認します。

「尿蛋白/尿中クレアチニン(尿P/C)比」の意味は?
本来は、24時間蓄尿で1日尿蛋白排泄量を測定することが正確です。腎臓内科外来では、慢性腎臓病の確定診断があり、各々の原疾患及び病期(特にG3b〜G5期)に対する治療経過確認及び管理栄養士を交えた食事療法の評価を行なう患者さんには、「ユリンメート®P」を使用した管理を日々の外来診療で行ないます。しかし、検診などの尿検査で「尿蛋白1+以上」を指摘され、初めて腎臓内科外来に受診された患者さんに24時間蓄尿検査は、行ないません。一般的には、外来での随時尿を用いた「尿蛋白/尿中クレアチニン(尿P/C)比」検査を行ないます。この「尿P/C 比」は、尿中クレアチニン1g あたりの蛋白量です。健常人の尿中クレアチニン排泄量は、1日約1g であることから、「推定1日尿蛋白量」を意味します。しかし、クレアチニン排泄量も個々の筋肉量や加齢変化の影響を受けるため、私的には「尿P/C 比」も半定量的検査と捉えています。「推定1日尿蛋白量(尿P/C 比)」からさらに正確な1日尿蛋白量推測値を求める場合、蓄尿での1日Cr排泄量(蓄尿中クレアチニンg/日)が判明していれば、「尿P/C 比」×「1日Cr排泄量(g/日)」によってある程度正確な推測値を求める事が可能です。

「尿蛋白/尿中クレアチニン(尿P/C)比」の結果から確定診断となる「腎生検」検討する場合の目安は、尿P/C 比0.5g/gCrです。
尿P/C比が0.5g/gCr以上が複数回の検査で持続する場合は、「腎生検」の適応となります。尿蛋白に加え、尿潜血も陽性である患者さんの場合では、尿P/C比0.5g/gCr未満であっても「腎生検」を考慮します。日本人に最も多い、慢性糸球体腎炎である「IgA腎症」の可能性が高いからです。(IgA腎症は、尿潜血が必発所見です。)「IgA腎症」は、末期腎臓病の原因となる腎臓病です。確定診断を受けて治療を開始することで末期腎臓病(人工透析療法を必要とする慢性腎不全)への進行増悪を抑制できる可能性があります。
職場検診などの尿検査の結果で「尿蛋白1+以上」を指摘された場合は、当院までお問い合わせ下さい。


関連リンク
一般臨床医(プライマリケア)のための検尿の考え方・進め方
第3章 検尿の位置づけ
 検尿異常への対処の基本的考え方、ポイント
CKD診療ガイド2009 CKDの診断
慶應義塾大学病院 KOMPAS 小児の腎臓の病気
第50回日本腎臓学会学術総会 特別企画慢性腎臓病対策を進めるために
~地域での取り組みから学ぶこと~大阪府立学校の検尿システムへの介入
IgA腎症・根治治療ネットワーク  


Posted by 松山医院大分腎臓内科 at 14:21腎臓内科に関する事

2012年04月17日

IKEAJ-YouTube

2011年9月の国連総会で腎臓病が、生活習慣との関わりが重要であると宣言され、
「生活習慣病」として世界で初めて腎臓病を非感染性疾患(Non-communicable diseases :NCD)の蔓延と社会・経済的等の課題として捉えられるようになりました。

私たち「腎臓病早期発見推進機構 IKEAJ」のmissionは、ある集団の中から腎臓病を認識していない人か、腎臓病が早期の状態にある人をできるだけ多く発見し、医療機関に紹介すること、つまり、慢性腎臓病CKDを減らすこと、強いてはストップ腎不全です。

そのためにはどうすればよいのか?
健康な生活習慣に努めることは当然ですが、早期発見・早期治療につきます。

その手段として早期発見の事業のパイオニアである米国腎臓財団(NKF)と連携して公衆衛生活動の腎臓病早期発見のための無料検診事業の組織としてIKEAJが立ち上がりました。

IKEAJが、日本版へのアレンジした「CKD早期発見プログラム」を
KEEP JAPAN、IKEAJ−KEEP(イケアジェイ-キープ)と呼んでいます。

IKEAJは、「CKD早期発見プログラム」についてより広く多くの方々へ理解して頂くために早期発見啓発DVDを作成しました。「IKEAJ-YouTube」(約11分)で確認できます。

「松山医院大分腎臓内科」は、「腎臓病早期発見推進機構(IKEAJ-KEEP)実施認定施設」として完全予約制で「CKD早期発見プログラム」を実施しています。
当院での「IKEAJ−KEEP」をご希望の方は、お気軽にご相談ください。

「IKEAJ-YouTube」(約11分)  


Posted by 松山医院大分腎臓内科 at 17:23腎臓内科に関する事

2012年04月13日

「腎障害患者におけるヨード造影剤使用に関するガイドライン」

日本腎臓学会、日本医学放射線学会、日本循環器学会の3学会共同で
「腎障害患者におけるヨード造影剤使用に関するガイドライン2012」が発刊されました。
日本腎臓学会のホームページから確認できます。

Q 造影剤腎症(contrast induced nephropathy:CIN)はどのように定義されるか?
 ヨード造影剤投与後、72時間以内に血清クレアチニン(SCr)値が前値より0.5mg/dL以上または25%以上増加した場合をCINと定義する。

CIN とは、ヨード造影剤による腎障害のことで、造影後に腎機能低下がみられ、造影剤以外の原因(コレステロール塞栓など)が除外される場合に診断される。一般に腎機能低下は可逆的であるが、症例により腎機能低下が進行し、人工透析が必要となる場合もある。

CIN のリスクファクターとしては、CKD・糖尿病性腎症・脱水状態・うっ血性心不全・低血圧・高齢・腎毒性を有する薬剤の使用などがあげられ、なかでも慢性腎臓病(CKD)は特に重要なリスクファクターである。また、一般にAKI(急性腎障害)の発症は生命予後に関連することが報告されている。CIN発症リスクは腎機能低下に応じて増加するので、造影前にできるだけ直近のSCr値を用いて腎機能を評価することが重要。慢性腎臓病(CKD)の腎機能による重症度分類(表1)では、GFR<60 mL/min/1.73㎡のG3a~G5がCKDに該当する。



上記の慢性腎臓病(CKD)の腎機能による重症度分類(表1)は、
日本人用に改変された「CKD診療ガイド2012(2009改訂版)」で登場します。
当院のホームページでの重症度分類は、KDIGO Controversies Conference 2009による分類を改変して表示しています。

関連文献
KDIGO Publications and Educational Materials
KDIGO Conference Reports and Review Articles:
The definition, classification, and prognosis of chronic kidney disease: a KDIGO Controversies Conference report 
Kidney International advance online publication, 8 December 2010;doi:10.1038/ki.2010.483

「腎障害患者におけるヨード造影剤使用に関するガイドライン2012」の目標は、造影剤を使用することによって起こる腎機能障害の発症を予防することである。そのため、造影剤を使用する患者に対する腎機能評価法の標準化と、造影剤使用の適正化を目的とする。
ガイドラインの対象は造影剤を使用する医師、造影検査を依頼する医師のみならず、造影検査に携わる診療放射線技師や看護師などの医療関係者である。と記載されています。

各項目「QandA」は簡潔形式で、背景と詳細解説で理解しやすいガイドラインです。
日本の慢性腎臓病患者数は約1330万人(成人の8人に1人)と推計されており、
慢性腎臓病患者と接する機会の多い医療従事者には、一読して頂きたい内容です。

※表1の中に訂正あり、修正更新しました。(2012年6月25日)  


Posted by 松山医院大分腎臓内科 at 18:35腎臓内科に関する事

2012年04月05日

「学校検尿」は何のために行われるの?

日本の「学校検尿」は世界に先駆けて1974年に開始され、多くの小児慢性腎炎が早期発見できるようになりました。経過によっては、腎不全に至るものもありましたが、最近の治療の進歩で腎不全への進行を抑制できる場合もあります。このため「学校検尿」は、腎不全に陥るような腎炎を早期に発見して精査と治療の開始や進行を抑えることが可能な医療機関へ紹介する目的で行われています。

検尿陽性者で精査が必要な場合は、腎生検による確定診断(病型や病期の把握)で適切な治療を選択することができるようになりました。代表疾患として「IgA腎症」があげられます。最近、成人領域では、「IgA腎症」に対し、「扁桃摘出術とステロイドパルス療法」を組み合わせた治療の効果が確認されています。「血尿+蛋白尿」の場合、約60%に腎炎が発見され、腎生検可能な医療機関での精査が必要となります。

「九州学校腎臓病検診マニュアル 第3版」(平成23年1月九州学校検診協議会腎臓専門委員会)は、検尿異常者の検診の進め方やその理由が分かりやすく記載されており、専門医への紹介の必要な基準など、従来適切に取り扱われていなかった異常者の精密検査方法についても記載されています。現在改訂中の管理基準を大きく変えた「新・学校検尿のすべての改訂版」にも反映されるものと思われます。このマニュアル内容は、成人における評価においても関連するところがあります。全ての検診において「尿検査」は必須項目となっており、学校医の先生だけでなく、成人病検診医や特定健診を行なう一般内科医、保健師など検診業務に関わる医療者は一読する意義があるマニュアルとなっています。

小児期(14歳まで)は、小児科外来での経過観察となりますが、小児期からのキャリーオーバーとなる15歳以上の場合及び高等学校での「学校検尿」で陽性となる場合は、腎臓内科外来での経過観察が必要となります。
15歳以上での検尿異常については、当院の「腎臓内科外来」までお問い合わせ下さい。  


Posted by 松山医院大分腎臓内科 at 03:09腎臓内科に関する事

2012年03月31日

慢性腎臓病CKD患者への消炎鎮痛薬

医療現場でNSAIDs/エヌセイド(Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs)と呼んでいるお薬は、その名の通りでステロイドではない抗炎症薬「非ステロイド性抗炎症薬」で、疼痛、発熱、炎症の治療に用いられています。

しかし、慢性腎臓病CKD患者さんへの「痛み止め」の常用は、腎機能障害増悪に拍車をかけます。慢性腎臓病CKD患者さんに望ましい消炎鎮痛薬はあるのでしょうか。
解熱鎮痛作用はあるが消炎作用はない厳密に言うとNSAIDsでない「アセトアミノフェン」 (カロナール・アンヒバ等)が望ましいとされています。

疼痛ナビにて「CKD患者への消炎鎮痛薬適正使用についてのポイント」を示しています。整形外科では、必要不可欠なお薬NSAIDs(エヌセイド)ですが、アセトアミノフェンには、NSAIDs(エヌセイド)にはない利点も指摘しています。(平田純生 先生より)

変形性関節症や腰痛症は、高齢者に多くみられる疾患であり、NSAIDs投与が行なわれますが、加齢に伴いGFRは低下していくため急性腎障害(AKI)を起こしやすい状態となります。

ご高齢の患者さんで特に慢性腎臓病CKDを指摘されている方は、消炎鎮痛剤(痛み止め)の服用については、可能な限り頓服での内服をお勧めします。
また、整形外科医との医療連携で「温泉治療浴」で体を温めることも良いと思われます。  


Posted by 松山医院大分腎臓内科 at 01:56腎臓内科に関する事

2012年03月27日

第67回 IKEAJ-KEEP in OITA

本日は、「認定特定非営利法人 腎臓病早期発見推進機構:IKEAJ(イケアジェイ)」によるKEEP(キープ):Kidney Early Evaluation Program(早期腎臓病発見プログラム)検診の日でした。この検診は、当院にて2006年9月より毎月1回第4火曜日に行なっています。

今月で67回目となりました。初回登録された検診者は、毎年続けてこの検診を受けることができます。本日で6年連続検診となる方もいらっしゃいました。

KEEP(キープ)検診の対象者は、「蛋白尿・腎臓病を指摘されていない方」で糖尿病の患者さん ・高血圧の患者さん ・糖尿病や高血圧症の家族歴のある方 、腎臓病の家族歴のある方 、その他、特にこの検診を希望する市民の方で「検査費用無料」で行なっています。

特定健診等との大きな違いは、国内で初めて「微量アルブミン尿とeGFR」を合わせて検査評価している点です。検診結果は、東京IKEAJ本部より約2週間程度でご自宅に届きます。

次回大分でのIKEAJ(イケアジェイ)−KEEP(キープ)検診は、2012年4月24日火曜日です。
完全予約制の検診です。ご希望の方は当院までお問い合わせ下さい。  


Posted by 松山医院大分腎臓内科 at 20:06腎臓内科に関する事